Country Fried Steak
先週末のアトランタではとことん南部に拘った食事をしました。前の記事にある Mary Mac's では勿論 pot likker だけを食べたわけではありません(だいたいそんなものはそもそもメニューにありませんし)。筆者のオーダーは、country fried steak & gravy で、サイドは squash soufflé と black-eyed peas にしてみました。カナリ南部、と悦に入っておりました。実はこの country fried steak、食べたのはこれが初めてです。以前から南部の料理として知っていたのですが、それは多分 Paula Deen の番組でとりあげていたからだと思います。
実際に食してみて驚きました。まず肉ですが、ほろほろに柔らかく、フォークで崩せるほどなのです。ステーキとは言うものの実際どの部分かはどこにも書いていないので、この感じだと brisket か flank あたりを slow cook したのかと思うほどでした。いずれにしても、肉を pan fry または deep fry しただけでは絶対にそうはならない仕上がりでした。Steak という概念からはほど遠い肉料理、それが country fried steak でした(少なくともこの店のバージョンは)。
帰って来て、改めて country fried steak を調べてみました。いつものように Wiki で引いてみると、何故かヒットしません。おかしい、載っていないわけはないはずなのにと思いきや、"chicken fried steak" として載っていました。
Chicken fried steak (countrty fried steak または CFS と記されることもある)は味をつけた小麦粉とパン粉をまぶした steak (柔らかく処理した cube steak)である。アメリカ南部料理である。名前の由来 CFS の下ごしらえがフライドチキンの下ごしらえと似ていることによる。しかし実際は、柔らかく処理した子牛または牛を小麦粉、卵およびパン粉でまぶしてから揚げたカツレツであるウィーンの Wiener Schnitzel (ラテンアメリカでは milanesa として知られている)に近い。
[歴史]
詳細な起源は不明であるが、19世紀にテキサスに移住したドイツ人・オーストリア人がヨーロッパから持ち込んだ Wiener Schnitzel が起源であるという情報がある。名称が変わったのはドイツとの戦争が理由である可能性がある。テキサス South Plain の Dawson County、Lamesa およびテキサス州 Bandera が発祥の地であるとされている。[類似の料理]
テキサス州および近隣の州では、CFS はフライパンで deep fry し、コショウで味付けしたミルクグレイビーを添えて供するのが一般的である。米国の他の地方では "country fried steak" とも称され、地域的な特色がある。ブラウングレイビーを用い、少量の油でソテーするか、グレイビーで軽く煮込むかする場合が多い。また別の地域では、"country steak" はブラウングレイビーを添えたハンバーガーである Salisbury steak を指す場合もある。
他の肉が使われる場合もあり、steak の代わりに骨なし鳥ムネを使った場合には chicken fried chicken と呼ばれる。これがフライドチキンと異なるのは、肉が骨からはずされている点と、chicken fried steak と同様に調理される点である。Steak fried chicken と呼ばれることもある。骨なしポークチョップ(多くの場合センターカット)も同様に用いられることがあり、その他ビーフカツ(柔らかく処理した round 肉)、バッファロー、骨なし鳥ムネが用いられることもある。
最初この文の解釈に非常に混乱しました。最初のパラグラフでは単に steak としか書いておらず、ふつう steak と言えば問答無用でビーフなのですが、しかし chicken fried steak と言うわけで、もしかしてビーフ以外の肉にも steak と言う単語を用いるのかとも思い、とするとチキンソテーの一種なのかと思ってしまいました。そうするとアトランタで食べたのはチキンだった? チキンをビーフと思い込んで気づかなかったのか? と一時はショックで呆然としてしまいました。
が、すぐにそうではなく、上に書いてある通り、下ごしらえの仕方がフライドチキンと似ているから "fried chicken" ライクな steak という意味で "chicken fried steak" というのだと分かりました。しかしまあ、このようなコンテキストがなく、いきなり "chicken fried steak" と言われたら、例えば "pan fried steak" という場合はフライパンでソテーしたステーキという意味ですから、チキンでソテーしたステーキという意味になってしまい、なんだか良く分かりません。"Fried chicken" ライクな steak という意味なら、そのものずばり "fried chicken steak" という風になりそうなところ、そうならない。"Fried chicken steak" だと、「フライパンでソテーしたチキンステーキ」というような意味にでもなるのでしょうか。しかし「チキンステーキ」は和製英語ならチキンソテーと同義だと言ってもいいかも知れませんが英語では意味をなしませんね。
まあウィンナーシュニッツェルと同じと殆ど同じだというあたりでようやく正しく解釈できた次第でした。
それにしても類似バージョンで、"chicken freid chicken" とはなんともふざけた名前でしょうか。最初何を言っているのか全然わかりませんでした。
ところでこれは南部料理と理解して正しいようではあるものの、pot likker とは全く異なり、ヨーロッパ起源のテキサス生まれだとは全く意外でした。Wiener Schnitzel と同じなら確かにそれはそうでしょうけれども、ひとくちに南部料理とは言え、随分出自は色々あるんだなと考えさせられた一品です。
さて CFS を調べ直そうと思ったのは、あたかも良く煮込んだ corned beef (日本のコンビーフではありません)のように、ほろほろに崩れる柔らかい肉が、一体どの部位をどう調理したものか知りたかったためでした。上の Wiki ではチラっと round というのが出てくるのですが、先日食べたのが round だとすると、一体どのような調理法を用いたのでしょうか。Round とは尻のあたりの肉で、数あるビーフの部位の中でも筋肉質で脂分が少なく、健康的だけれどもちょっと火を通しただけであっという間に固くなる部位です。これをあれだけ柔らかくするにはとろ火でコトコト三昼夜 slow cook しないと無理です。「ステーキ」という技法ではあり得ません。
ヒントは Wiki 冒頭の "cube steak" にありました。何気なく読み飛ばしていましたが、これは実は「サイコロステーキ」という意味ではありません。アトランタで食べたものも一枚の肉であって、サイコロステーキではありません。それが何かを書く前に、Paula Deen の CFS のレシピを見てみましょう。
Country Fried Steak with Biscuits and Gravy
IngredientsSteak and Gravy:
1 1/2 cups, plus 2 tablespoons all-purpose flour
1/2 teaspoon freshly ground black pepper
8 (4-ounce) tenderized beef round steak (have butcher run them through cubing machine)
1 teaspoon House Seasoning, recipe follows
1 teaspoon seasoning salt
2 cups buttermilk
2/3 cup vegetable oil
1 1/2 teaspoons salt
1 quart whole milk
1/2 teaspoon monosodium glutamate (recommended: Ac'cent), optional
1 bunch green onions, or 1 medium yellow onion, sliced
ビーフのところを見てください。Round steak を使うのですが、これはただの round ではなく、"tenderized"(柔らかく処理)したものを使います。そして括弧内には、「肉屋の "cubing machine" で処理して貰え」と書いてあります。どうやら tenderize する方法の一つが cubing であるようです。ではちょっと cubing machine をググってみます。
まずはこんなのがヒットしました。
・・・ これは文字通り肉をサイコロ状に切る機械でした。これじゃありません。Cubing machine ではなく meat cuber でググるとこんなものがヒットしました。
これ、ミンチを作ったりソーセージを作る mincer に似ていますがちょっと違います。寧ろパスタマシンに近いものです。上からステーキなどの平たい肉を入れると、下から処理された肉が出てくるわけですが、どんな処理が施されているかと言うと、アタッチメントの中身はこんなになっているようです。
ようするに、肉を細切れにするのではなく、小さい切れ目を沢山入れて、筋・腱などをカットすることで柔らかくしているわけです。手動ならこんな道具もあります。
筆者はこれを買おうかと思ったけれども、洗って衛生的に保つのが凄く大変そうだと思ってやめたのでした。肉を tenderize する方法は、その他パパインなどの酵素で処理する方法、パパインなどを含む果物、パイナップルなどを用いたソースでマリネしておく方法、アルコールを用いる方法など色々ありますが、最終的にステーキにするならこのような物理的な方法に頼ることになるわけで、この方法のことを "cubing" と言うのだと初めて知りました。ここで改めて cube stake を Wiki で引くと、
Cube steak はビーフの一部位であり、通常は round または top sirloin であり、肉叩きで良く叩くか、電動 tenderizer で柔らかく処理したものである。多くのシェフは肉叩きを用いると肉を潰しすぎることになるため、専用の cubing machine を用いるか、もしくは肉の繊維の各方向を断ち切るように鋭利な刃物を用いて手で cubing するのが良いとしている。Cube steak は chicken freid steak に最も良く用いられる肉である。
そうなのです。筆者も筋肉質のビーフを煮込むのではなくステーキにするために tenderize するには、pairing knife で丹念に繊維を断ち切るのがベストという結論に至り、時々それを実践しているのでした。
ちょっと後半は南部料理から話がずれましたが、知らなかったことシリーズということで。ちなみに筆者の愛用している辞書(三省堂 Exceed)によると、"cube" には上のような意味は掲載されておらず、成句として "cube steak" が掲載されていますが、その訳は「さいころステーキ」でした。動詞としての "cube" には「さいの目に切る」という意味があるからでしょう。たしかに上の電動の meat cuber のアタッチメント内部を見れば、縦横に切れ目を入れるので、さいの目に切るのに近いとは言えますし、それが cube steak の語源に違いないと思います。しかし実際には切れ目は2次元だけなので縦横に切れ目の入ったステーキにはなりますが、3次元で切った結果である本当のサイコロにはなりません。よって「さいころステーキ」はハズレです。
なお「英辞郎」では "cube steak" の訳は「キューブステーキ」でした...orz
やっぱりビーフの扱いは肉食文化圏には全然かないません。
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