2012年5月24日 (木)

Lowcountry Boil

本日 South Carolina の Lowcountry cuisine という単語を初めて知り、興味を覚えたのでちょっと調べてみました。まずは吉例によって Wikipedia から… と行きたいところですが、その前に South Carolina の Lowcountry 自体について理解しないといけないので、まずはそちらから。

South Carolina Lowcountry

Lowcountry (公式なスペル。Low Country、または単に lowcountry と表記されることもある)はサウスカロライナ沿岸部の地理的・文化的な地域のことであり、サウスカロライナ州島嶼部を含む。農業が盛んで知られたこともあったが、今日ではその歴史的な街並み、自然の美しさ、特異な文化遺産などで国際的にも知られており、何百万人もの観光客が訪れ、また何千人もの移住者を迎えている。

[定義]
Lowcountry は地理的・社会的な用語と考えられている。Lowcountry の定義は文化との関連があると一般には考えられているが、それが地理的にどの程度の関連があるかという点については様々な異なった意見がある。Lowcountry はサウスカロライナの Sandhills から Columbia の東の海岸までに過ぎないという歴史家もいる。このエリアはほとんど海抜ゼロメートルもしくはそれ以下の地域であり、それがために "low country" と呼ばれている。しかし現在では見方によって次のような色々な定義が存在する。

必ず含まれる地域
Lowcountry として最も普通に受け入れられている county は、Beaufort、Collecton、Hampton および Jasper county である。この定義の支持者は、これら4つの county を統括する Lowcountry Council of Governments (地方行政および地方交通の行政体)の存在を指摘している。これに加え、サウスカロライナ公園余暇観光局も、前述の4つの county を "Lowcountry およびリゾートアイランド" 観光エリアと見做している。

含まれることが多い地域
Lowcountry にしばしば定義されるそれ以外の地域としては、Berkeley、Charleston および Dorchester county があり、これらは Charleston-North Charleston-Summerville メトロポリタンエリアと呼ばれることもある。この拡大版地域に対しては、Charleston-North Charleston-Summerville メトロポリタンエリアという名称は Charleston 市の住人たちによって用いられることが多い単語であるが、これがサウスカロライナ州の当該地域の名称を与えようとして Lowcountry という愛称を借用したという批判されることもある。しかし狭義の Lowcountry と同一の地理的特質・特徴が、当該3つのメトロポリタン county にも多く普遍的に見出されるとして支持する向きもある。

まれに含まれる地域
Lowcountry はさらに広く辺縁部のエリアに用いられることもある。Allendale、Geoergetown および Williamsburg county がそれである。海岸に沿って Muytle Beach と Conway を中心とする Horry county にも用いられることがあるが極めて稀であり、こちらは寧ろ独立した地域(The Grand Stand)と認識されることが多く、また地理的にはサウスカロライナ州 Pee Dee 地域の方が近い。

Wikipedia は各国語版によって内容が異なることが珍しくないのですが、日本語版に面白いことが書いてあったので引用します。

サウスカロライナ・ローカントリー

サウスカロライナ・ローカントリー(South Carolina Lowcountry)は、アメリカ合衆国サウスカロライナ州の沿岸の地域を表す言葉。概して州の南にあり、チャールストンを含む。地域は島嶼地域のシーアイランズ(w:Sea Islands)が含まれる。一般に認められたローカントリーの郡は、ビューフォート、 ジャスパー、ハンプトン、コレトンの各郡である。

より広範に適用して、この言葉は州の瀑布線の下の全地域を指す事がある。その場合はさらに、バークリー、チャールストン、ドーチェスター、ジョージタウン、サムター、クラレンドン、リー、ウィリアムズバーグ、ホリーの各郡が含まれる。
ローカントリーの最大の経済の中心地はチャールストンとジョージア州サヴァンナである。
その他の地域の大きな中心地は、ビューフォート、ハンプトン、ウォルターボロが含まれる。ブラフトンとハーディーヴィルは、将来より経済的に貢献するであろう急成長している二つのコミュニティである。
地域はその文化と歴史を共有している。セントヘレナ島のガラ人、ビューフォート近くの初期のヨーロッパの入植地の影響は顕著である

日米の違いを指摘することが目的ではなく、ここで注目したいのは「瀑布線」なる単語です。これは英単語 fall line の和訳なのですが、この fall line とは何でしょうか。ウィキの日本語版が存在してその内容がしっかりしているのでそちらから引用します。

滝線

滝線(たきせん、英語: fall line)とは、地形でいうと高地と平野の急な高低差に生じた一連の滝(英語: waterfall)や急流の箇所を結んだ線を指す地理学上の用語である。瀑布線(ばくふせん)ともいう。具体的には、北アメリカ大陸(アメリカ合衆国)東部のアパラチア山脈の東麓に広がるピードモント台地と大西洋岸平野の境界部分の地形にアパラチア山脈から発して並行して流れる河川が作り出した滝を結んだ線(英語では大文字で"Fall Line"と表記)から生じた。

滝線都市の例
アメリカ合衆国東部から南東部にかけて、アパラチア山脈東側のピードモント台地が大西洋岸平野へと急速に高度を切り下げる斜面には1,500km以上に及ぶ滝線地帯(英語: fall zone)が形成されている。先史時代にまで遡る集落形成が行われてきたこの斜面は崖だけでなく場所によっては幅は何マイルにも及ぶ。 一例を挙げるならば、バージニア州リッチモンドを流れるジェームズ川は大西洋に開いた河口まで全体で一連の早瀬となって流れ下っている。

19世紀に滝線はポトマック川のリトルフォールズやグレートフォールズのような水運上の断点を意味した。しかし、20世紀初期に給水のための水路開削や運河が建設されたことにより、単なる断点の連続ではなく、それに沿った都市の出現=滝線都市こそが滝線の最も突出した特徴となった。 さらに、アメリカ北東部メイン州からフロリダ州までの大西洋側諸都市を結ぶ国道1号線がこれら滝線都市も連絡して、あたかも滝線に添うように建設され、滝線都市をさらに強調するものとなった。

ピードモント台地東縁の滝線都市には次のような例がある。(以下、括弧内は滝線にかかる河川名)

ニュージャージー州パターソン(パセイック川)
ニュージャージー州トレントン(デラウェア川)
ペンシルベニア州フィラデルフィア(スクーキル川)
メリーランド州ボルチモア (パタプスコ川)
ワシントンD.C.ジョージタウン地区
バージニア州アレクサンドリア(ポトマック川)
バージニア州リッチモンド(ジェームズ川)
ノースカロライナ州ローリー(ニューズ川)
サウスカロライナ州コロンビア(コンガリー川)
ジョージア州オーガスタ(サバンナ川)
ジョージア州コロンバス (チャッタフーチー川)
アラバマ州モンゴメリー(アラバマ川)

なお、上記都市のうちローリー、コロンビア、オーガスタの代わりに、ノースカロライナ州のグリーンズボロ、シャーロットおよびジョージア州のアトランタを滝線都市の例として挙げている教科書・解説書もある。これらの都市はローリー、コロンビア、オーガスタよりもそれぞれ120-150kmほど内陸に位置している。

かなり横にそれましたが、確かに US-1 や I-95 の西は大きく言って丘陵地帯、東は海岸平野と、道路の東西で風景が大きく異なることは気づいておったのですが、そこに fall line という名前があるとは知りませんでした。ましてそれが DC の Georgetown やウチの近所の Great Falls を通っていたなどとはツユ知らず。そしてその line が NJ 北部から GA まで続く長大なものだったとは。

中学・高校のころ、実家から学校まで自転車通学をしておったのですが、その途中、どういう経路を通ってもかならず坂道があるのですが、これが今でこそ有名になってしまった立川断層。立川断層と Piedmont fall line じゃ規模が違いすぎますが、そこにいなくなってから「え~、あれがそうだったの」ということはままあるもんですね。

さて話を戻してやっとサウスカロライナ Lowland cuisine。

Lowcountry cuisine

Lowcountry cuisine はサウスカロライナ・Lowcountry とジョージア沿岸部に歴史的に関連する料理である。南部と共通する特徴もあるが、fall line の上側の地域からはその地理、経済、物理、人口統計、文化により料理の方向性は異なったものとなっている。沿岸部の河口域のバラエティに富んだ海産物、Charleston と Savannah の豊かな経済、活力あふれるカリブ海料理およびアフリカ料理の影響などが相俟って、Lowcountry 料理は New Orleans、Cajun、フロリダ料理などとの強い類似性を持っているのである。
中略
当該地域の料理が南部内陸部のものと異ならせている決定的要因は、地理的なものである。豊饒な河口域からは、冷蔵技術が発達する以前は沿岸部以外では入手不可能であったエビ、魚、カニ、カキがふんだんに水揚げされる。サウスカロライナの沼地では日常の主食である穀物、コメの栽培が可能であった。これはバージニア東部低地帯およびノースカロライナの沿岸部と非常に類似した状況である。

ここでも fall line が出てきます。Fall line は食文化の形成にも影響を及ぼしたようです。ま、そりゃそうですね。

さて肝心な cuisine ですが、Lowcountry cuisine がどんなものかはこれで雰囲気的には分かるような気はします。Cajun、Creole や South となんとなく近そうなところはあるものの、シーフードが中心であると。だから Cajun に近い味付けはしたりするけれども、country fried steak やら fried chicken などの典型的な Southernn style の肉料理は出てこない、と。ではここで、google.com の検索窓で、"Lowcountry␣" と入力したら自動的に "Lowcountry boil" が auto complete で候補表示がされたのですが、それをキーワードとしてでググってみると色々ヒットしたうち Wiki では Seafood boil としてヒットしました。よってそちらの項目から South Carolina の Regional を見てみることにします。

Seafood boil

Georgia and South Carolina
ジョージアおよびサウスカロライナ沿岸部では魚介類を囲む2種類の社交上の集まりがある。
1つはルイジアナボイル(訳注:日本人的には「ルイジアナ鍋」と考えると分かりやすい)に非常に良く類似しており、通常エビ、トウモロコシ(軸についたままでバラしていないもの)、ソーセージおよび赤ポテトを用いるもので、これは Lowcountry 料理に属するものと考えられている。Frogmore Stew、Beaufort Stew、Beaufort ボイル、Lowcountry ボイル、低地ボイルなどの別名もあり、ルイジアナの Cajun および Creole 料理よりは少々マイルドな傾向がある(訳注:日本語の「シチュー」はとろみのついている印象が強いので、敢えて Stew をシチューと置き換えませんでした。敢えて訳すなら "Frogmore 鍋" "Frogmore 煮" あたりが妥当か。以下同様)。Cajun のレシピではカニボイル用調味料(Zatarian's や Old Bay など)と大量のカイエンペッパーおよびホットソースを用いるところ、Lowcountry レシピではホットあるいはマイルドなカニボイル用調味料を用いることはあまりない。エビを用いることが最も多いが、カニおよび/またはザリガニを加える場合もあり、この点もルイジアナボイルが1種類の魚介類しか用いないのと比較して異なる点である。

この心休まる1ポットレシピ(鍋を一つしか使わない料理)はいつも人気の的である。Frogmore はサウスカロライナ州  Beaufort 近傍の St. Helana 島の中心部にある集落の名前である。この皿には多くのバージョンがあるが、Frogmore Stewの名は St. Helana 島で 1948 年頃創業の Gay Fish Company の創業者の1人 Richard Gay によって 1960 年代に付けられた。Fragmore Stewは 1980 年代に Goumet Magazine 誌で取り上げられたあと広く知られることとなり、その名前とともに現在に至っている。2005 年には Travel Channel で Richard の弟である Charles Gay が 番組 Taste of America の中で Mark DeCarlo とともに Frogmore Stewを料理している。

Low Country ボイルの起源は、はるかジョージア・サウスカロライナの海岸に沿った諸島の Gullah/Geechee 人の料理に端を発する。奴隷交易の対象であったアフリカ人たちは彼らの祖国の料理の影響だけでなく、スペインおよびフランス料理の影響をもアメリカにもたらした。大人数が集まるときの食事は、早く調理可能な食材で出来るだけ早く作る必要があった。ボイル(訳注:鍋)はいちどきに全ての食材を調理可能な迅速で簡便な方法であったのである。
最も人の集まる Frogmore Stew は、10 日間の Beaufort Water Festival(54 年間のフェスティバルの歴史を通じて、東海岸においてボランティアによって運営されるフェスティバルでは最大のものに成長した)であるが、このイベントでは 2,400 人に食事を提供することになり、このときエビ 540kg、トウモロコシ 2,400本、ソーセージ 270 kg、シーフードスパイス 2kg が 160 kg のコールスロー、1000ℓのアイスティー、2,400 本のロールと 90 個のスイカとともに供されるのである。

もう1つの種類のイベントはオイスターローストである。金属の天板または目の細かい金網を炭火に乗せる。これにカキを山盛りにする(予め泥は殻から洗い落としておく)。カキの上に目の粗い麻袋をかけ、カキを半焼き・半蒸しにする。これをシャベルですくい、近くのテーブル(木挽き台に乗せたベニヤ板が一番良い)の上にあける。カキはまだ熱いまま殻は開いた状態になっており、しかし身は殻についたままなので少々引き剥がす必要はある。これは特に、カキが旨く、また海岸で火による暖が必要な冬(サウスカロライナでカキの採れる'R'のつく月)の名物である。

どちらのイベントも近隣、家族、友人が集まり、親交、音楽、飲食、音楽(特にカロライナ shag)を楽しむための大きな社交的な集まりである。最も有名な例はサウスカロライナ州 Columbia の South Waccamaw Street で 11月末、Clemson 大対 South Carolina 大の州内フットボール試合の前に行われるものであろう。

訳注に書いておきましたが、この boil とか stew とか roast とか言うもの、当然調理法を意味していますが、同時にイベント名でもあります。これを「鍋」と訳注した箇所がありました。鍋を用いた Japanese one dish plate ですから調理法の1つですが、家族や友人など、近しい人たちで「囲む」イベントの名前でもあります。もっと規模が大きくなって、村全体でやる場合も、同様の例があります。その場合は「鍋」ではなくて「煮」という例があります。東北地方に。「いも煮」というヤツですね。あれも皿の名前であると同時にイベントの名前です。
上の訳には「2種類の社交上の集まりの1つが○○ボイルであり、もう1つがオイスターローストである」と書いておきましたが、なんのこっちゃと思われた方はそういう意味だと思って読み直してみてください。なーんだ、日本もアメリカもおんなじじゃないの、と思えることでしょう。

ところで Seafood boil のうち、上の Georgia and South Carolina のすぐ下に Chesapeake Bay の記載がありましたのでついでに引用しておきます。

Chesapeake Bay
Chesapeake Bay は北米で最大の入り江であり、ブルークラブ、Chincoteague カキ、クラムを豊富に産する。南部と中部大西洋州の境界にあり、双方の料理文化にまたがっている。Crab house(Crab shack とも言う)が湾の両側に沿って立ち並び、蒸したてのカニを供する。

Maryland Crab Feast(メリーランドでは "Crab Boil" という単語は用いない)は友人などの小さな集まりでは人気のイベントである。名前とは異なり、実際の調理法は「蒸し」である。カニを蒸すポットは上げ底になっており、専用のバスケットが底部の液体に触れないように作られている。ビールもしくは水を酢と混ぜ、数インチほど注ぎ、沸騰させる。バスケットにカニを入れ、スパイスミックス(通常 Old Bay)を均等にふりかけ、蒸し器に入れる。20 分後、鮮やかな赤い色になったカニを引き上げ、トレイや皿にあける。テーブルには茶色い紙を何枚か敷き、木槌と鋸状のナイフが爪を割り、身を取り出すのに用いられる。一般的なサイドディッシュはコールスローとトウモロコシである。

…なつかしい。そうなのです。言われてみれば。Boil、boil と言いますが、steam なのです、あのカニの調理法は。だって、目の前に供されるときにはスパイスがたっぷりついていますから。茹でたんなら全部流れ落ちるはずなのに、です。で、実際 boil しないからなのか分かりませんが、イベントとしての名称は boil でも steam でもなく feast。筆者駐米時はイベントの名称までは知りませんでしたが、この "カニパーティ" は何度やっても楽しかったです。店に行くと、まず粗雑な木のテーブルに、茶色のロール状の厚めの模造紙をババッと何度か適当に広げ、カニでもツユでも、どれだけしたたってもこぼしても、最後に紙ごと丸めて捨ててしまえばテーブルが片付くようにセットしてくれます。しばらくしてカニが届くとみな夢中。木槌は爪を割るのだけに用い、それ以外の部分は手で割るのがホント(でないと折角の身を崩してしまって回収率が低下します)ですが、流儀はどうでもいいでしょう。ときどき corn on the cob も食べたりして。
ついでと言っちゃついでですが、Old Bay seasoning は日本でも有名な McCormic の製品ですが、この会社は Baltimore, MD の会社。Old Bay 味の Maryland Crab Feast は、極めてメリーランドな食べ物なんですね。ソフトシェルクラブだけがメリーランドのカニじゃありません。あ… メリーランドの話じゃないんでした。今日はサウスカロライナ。

再び話を戻して、肝心の Lowcountry Boil のレシピを見ておきましょう。サウスカロライナではありませんが、上でしばしば登場する Savannah, GA の超有名な住人、Paula Deen のレシピです。

Low Country Boil

[材料](6人分)

カニ用スパイス、水 1ℓあたり小さじ 2
新じゃが(赤) 12個
スモークソーセージ(10cm長) 6本
とうもろこし 6本
エビ(皮はむかない) 1.5kg

[作り方]
1. 大なべに全部の材料が隠れるだけの水を入れ、必要量のスパイスを入れ(スパイスは好みに応じて加減する)、沸騰させる。
2. 沸騰したら、じゃがいもとソーセージを入れる。
3. 中火で 20分茹でる。
4. とうもろこしを加え、さらに 10分茹でる。
5. エビを加え、さらに 3分茹でる。
6. 火からおろし、ザルにあけ、暖かいパンと供する。

チョー簡単ですね。確かに簡単に素早く大量に作れる料理ですわ、これは。んでもってチョー healthy。油の一滴も使ってません。これが Paula のレシピであるということが本当に驚きです。何しろ Paula と言えばバターを「本」単位で使うヒトですからね。塩分も知れてます。スパイスミックスでシーフードを茹でるあたりは New Orleans と共通する香りがしますが、Cajun とも違いますし、明らかに Southern ではありません。ちょっと今までアメリカでは見かけたことのない系統の料理です。

筆者は、バージニアより南については、ノースカロライナ、ジョージア、フロリダには曲りなりにもそれぞれ2泊ずつはしているのですが、サウスカロライナには足を踏み入れたことすらありません。これと言って知っている都市や事柄もなく、印象の薄い州ではあったのですが、そんな州でもそれなりに staple はやっぱりあるようです。そりゃそうですよね。
さてこのレシピ、シンプルなだけにいい加減に集めた食材で日本でやると結構ヘンテコな皿に仕上がりそうです。ちょっと工夫しながらそのうちやってみましょうか…

|

2012年5月19日 (土)

General Tso's Chicken in Tokyo

本日、"General tso 日本で食べたい" とググって当ブログにたどり着かれた方がおられました。日本国内からのアクセスだったようですので、アメリカあたりで食されて、日本に戻られた後も、"あ~、あれ、また食べたいな~" と検索されたのではないかと思います。今でも General Tso's Chicken と日本語 Google.co.jp でググっても結構ヒットしないもので、結局このブログにたどり着くケースは散見されるようで、だからこそ筆者は当時、この皿は日本では案外知られていないんだな~と思い、わざわざ英語版 Wikipedia を訳してみたりしたのでした。で、その時用いていた漢字表現は、"左宗雞" でした。この単語を現在の日本語 Google でググると、筆者のブログがトップでヒットしてしまうほか、多くの中国系の結果がヒットします。逆に言うと日本語の結果は殆どヒットしません。ちなみにヒット数は 113万件。日本じゃ知られていないにしても、そこまでというのはちょっとおかしいと思い、検索ワードを少し変えてみました。現地のチャイニーズレストランで多く見かけた表現は "左公雞" でしたので今度はこれでググってみます。相変わらず中国語ばかりな上にヒット数自体も 23万件に減少してしまいました。"雞" が日本語じゃないんだろうと思って次に "左公鶏" でググって見ると、なるほど日本ではこの表記なのか、という感じで見事日本語ばかり 93 万件もヒットしました。

が、その検索結果の1ページ目にずらりとならんだヒット内容というのが・・・ こんなのばかりでした。

中華はカロリーと塩分過剰…米国人に衝撃の結果

中華料理への逆風が米国内でやまない。食の安全に取り組む米NGO「公益科学センター」は、「中華料理はカロリーと塩分過剰」とする分析結果を発表し、体重と血圧が気になる米国人に衝撃を与えた。
まずはセンター側の分析を聞こう。
発表をもとにした米国内の報道では、全米の中華レストランで人気の「ジェネラル・ツォズ・チキン(左公鶏)」がやり玉に挙がった。揚げた鶏肉にピリ辛ソースを絡めた1品だが、1皿で1300キロカロリー、3グラム強の塩分とか。確かにこれだけで1日の所要量の半分前後に達する。
<< 中略 >>
米国と香港でこの料理のレシピを比べると、その差は一目瞭然(りょうぜん)だ。
ざっと違いを挙げると、(1)米国では鶏肉にコーンスターチとタマゴの衣をつけて揚げるが、香港では下味をつけた鶏肉を油でいためるだけ(2)香港で使わない砂糖を米国ではサジ3杯入れる(3)ケチャップは米国で使っても、香港での使用は皆無-といった具合だ。
高カロリー化は米国人の舌と胃袋が求めた結果であり、リーブマン主任の言う通り、この件で中華レストランばかりを責めるのは酷ではないか。もっとも気にすることはない。発表の翌日も、ワシントンの中華街では「左公鶏」の注文がひっきりなしだった。
(ワシントン 山本秀也)
ソース:http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/46021/

2007年4月上旬ころの記事のようです。もうリンク切れになっているのでそのままコピペさせていただきました。
2007年4月と言えば筆者がこのブログを始める1ヶ月ほど前のこと。そんなことが話題になっているとは全然知りませんでした。ワシントンの中華街? 確かにありますし何度も行きました。Verizon Center もそこにあります。が、ウマい Chinese restaurant なんてありませんよ。だいたい実質的に中華街と言えるのは H St の 6 St と 7 St の間くらいなモンですし、DC の Chinatown に行くなら、そのすぐ近傍に沢山存在するチャイニーズ以外の有名店に行くのが合理的というものでしょう。DC 近傍で旨い Chinese restaurant が比較的多いのは Falls Church, VA です。
ということは、ワシントンの中華街で出される General Tso's Chicken もだいたい想像がつくという話で、上の記事を絵に書いたような高カロリー、高塩分。で、上の記事には出てきませんが、MSG たっぷり。

で、上の記事と分析結果はその皿を正しく現していると思いますし、「高カロリー化は米国人の舌と胃袋が求めた結果であり」、まさしく「リーブマン主任の言う通り」なのですが、こと General Tso's Chicken については、そういう理由で香港式が米国式に変化したわけではありません。以前書いた通りもともとこんな皿は香港や中国大陸には存在せず、米国人の舌と胃袋の要求に応じてアメリカで、そういうものとして生まれた皿だったわけです。

それにしても上の分析結果、どういう意図があったのでしょうか。「比較的健康的と考えられていたチャイニーズが、実はそうでもなかった」という話なのか。"衝撃" と言うからには多分そうなのでしょう。そもそも、どう考えてもアメリカンの方がもっと高カロリー・高塩分で不健康そうに見えますし。おまけに同じ脂質でも、チャイニーズが植物性 oil を多用するところ、欧米系では動物性 fat を多用しますから余計タチが悪い。塩分については、以前エントリしようしとしてやめた経緯があるのですが、Virginia の食事がどういうわけだか物凄くしょっぱいのです。世界でもトップクラスの塩分消費量の日本人の一人である筆者でも、食べられないくらいしょっぱいことが珍しくないのです。ハムの名産地であることと関係があるのかないのか分かりませんが・・・ 人口一人あたりの塩分消費量という統計があれば、きっと全米トップなのではないかっと思って統計資料を探したのですが見つからずに諦めました。

でも、だとしたら結構意外ですね。日本では「え~、中華料理って結構オイリー」と認識されていると思いますが、やっぱりベースが違うんですかね。日本人なら中華を和食と比較してオイリー・こってり系・高カロリーと思うけれども、アメリカ人は中華をアメリカンと比較してあっさり系・低カロリーと思っていたということなんでしょうか。冷静に考えれば意外でも何でもないかも知れません。

さて、筆者はその左公鶏、日本で特に食べたいと思うわけではありません。でも検索でこのブログにたどりついた方のように、アメリカで食した後、日本でも食べたいと思われる方は確かにおられるだろうと思い、興味があったので東京では食べられないのかちょっと探してみました。まず改めて General Tso's chicken で検索をかけたら、面白いものを見つけました。とある東京在住外国人のブログ Mutantfrog Travelogue なのですが、ある日のエントリへの書き込みに、「日本には2つのものがない。旨いベーグルと旨い General Tso's chicken だ」 というのがあり、一斉に賛同を得ていました。また、「チンケな kebab pita sandwich や falafel はあるけれども、まともな gyro も見たことがない」という書き込みもありました。まあここに書き込んだ人が東京の全ベーグル店や全中東レストランをリサーチした上で出している結論ではないでしょうが、マンハッタンなら不満に思わないレベルのものが探し回らなくても至るところで普通に買えるのに、東京では専門店を標榜している店にわざわざ行ったのにがっかりさせられた、という経験を何回かすればかような結論に至るのはごく自然です。そうなのです。ヨコに逸れますが、東京ではベーグルが流行り初めているようですが、本場の彼らに言わせると、そのレベルなのです。中東料理も、赤坂界隈を歩いていると数こそ多いように錯覚しますが、東京全体ではまだまだ少数ですし、実際に食してみるとまだまだレベルアップが必要です。アメリカのように移民の文化の中で揉まれて育成されていない未熟な味がします。

元に戻って、東京で、英語ベースで General Tso's chicken を探しても見つけられないのはほぼ確実なようです。では左公鶏ならどうでしょう。結果は、それでも1軒だけ。もと NY 在住だった方が American Chinese を食べに行った雰囲気濃厚なエントリですが、芝大門の中華料理店です。それと、これは店ではなくてレシピですが、

左公鶏丁(地鶏の湖南風辛味炒め)
知味 竹爐山房 オーナーシェフ 山本豊先生

なるレシピを見つけました。ということは、吉祥寺にあるそのレストランには左公鶏があるのか? と思って覗いてみると、ダイレクトに「左公鶏」という名称の皿はなく、「鶏もも肉のから揚げ甘辛仕立て」というのが最も近そうでした。ここで気づきました。日本で中華レストランに行って、メニューに「左公鶏」と書いてあっても殆どの人は何のことだか分からないのではないか? 「鶏もも肉のから揚げ甘辛仕立て」のように表記しなければ分からないのではないか、と。では改めて、General Tso's chicken を日本語でメニュー上に何と表現するか? 筆者は当時のエントリで「フライドチキンの甘辛酢あんかけ」と表現していますのが、もう少しありがちな表現にするならば、「鶏唐揚げの甘酢あんかけ」か「鶏唐揚げのピリ辛あんかけ」くらいなところでしょう。このうち前者で良ければ何のことはない、いくらでもヒットします。特に定食系の店で多く見受けられますが、敢えて中華料理店の例を挙げるとこんな感じ。

鶏から揚げの甘酢あんかけ定食 / by ちーちくりん

なーんだ、という感じですね。給食でも見たような気がするくらいです。あれは酢豚か。

こんなものは General Tso's chicken ではない! という人は多いかも知れません。一方、ん! これはこれでイイかも知れない、という人もいるかも知れません。でも General Tso's chicken を探し求めるアメリカ人が街の中華屋さんや定食屋さんの「鶏から甘酢あんかけ」を見つけることは至難の業でしょうねえ・・・ 字も読めないしオーダーも出来ないし・・・ でまたアメリカ人が日本人の知り合いに尋ねたとしても、その日本人が General Tso's chicken を知っていることはまずないでしょうし。

一方、昔から「鶏から甘酢あんかけ」を知っている日本人にとっては、これはあくまで「鶏から甘酢あんかけ」でしかなく、General Tso's chicken ではないでしょうから、帰国組の方は上の大門の店へ行くか、他で「左公鶏」を探しても打率が悪そうなので、中華料理店で「鶏」×「辛」×「炒」をキーワードに地道に探すしかなさそうです。それでも、ここは日本ですから、American Chinese ではない「鶏」×「辛」×「炒」料理が出てくる可能性が高く、期待した皿が出てくる可能性はかなり低いと見なければなりますまい。吉祥寺のレシピの例も「湖南風」と言っていて、衣をつけないレシピですからこれは non American です。同じ Hunan style でもアメリカで供される General Tso's chicken には衣がついています。大門の店に行った方のエントリを読むと、NY と比較して特に疑問を覚えていないようなので、American な General Tso's chicken だったのでしょうね。

参考になったでしょうか・・・?

|

2012年5月17日 (木)

Pizza as Vegetable

本日もまたIFTの weekly news から、信じられナ~イというニュース記事を一つご紹介します。

ピザを野菜と認めない法案提出へ

Jared Polis 下院議員は、学校給食に供されるピザの成分基準を変更することにより生徒の健康を守るための新法、学校給食改善法案(School Lunch Improvements for Children’s Education Act, SLICE Act)の内容を明らかにした。昨年、米国農務省(USDA)は給食中のピザが野菜にカウントされなくするような規則を提唱したが、議会がこれを阻止した。

議会は 2010 年 12 月、連邦の小児栄養法(the Healthy, Hunger-Free Kids Act)を追承認し、学校給食の基準の見直しを行った。議会はピザがトマトペーストを含んでいるという理由で、ピザを野菜と見做す文言をUSDAの基準に加えたのである。

Polis は、トマトペーストには少量の栄養成分が含まれてはいるものの、ピザには大量の砂糖、塩、パン、チーズが含まれており、ピザを摂取することで大量の脂肪と炭水化物を摂取することになると考えている。SLICE 法案により、USDA は次の 3 つの方法により公立学校におけるピザの健康標準を確立する方法を取り戻せるであろう。

- トマトペーストの含有量を現行の 1/2 カップから正確に 1/8 カップ単位で計測することにより、USDA がピザを野菜と見做せなくする
- USDA がサイエンスに基づいた減塩ターゲットを設定できるようにする
- USDA が全粒粉の使用義務を設けられるようにする

下院が今年の農業健康プログラムの追承認に向けて準備中であるため、Polis は SLICE 法も今会期中に一連の農業関連法案とともに採択され、法制化されるものと期待している。

ちょっと目を疑いますよね。前のピンクスライムの例もそうですが、アメリカの議員立法の現実というのは、こういうものなのだというのが良く分かる例だと思います。

本件は、ちょっと調べてみましたら要するに以下のような話です。

The Healthy, Hunger-Free Kids Act という、学校給食を規定する法律があります。公立学校においては連邦の予算で、学校給食を供することを可能にしているその拠り所となっている法律がこれであるわけで、その所管官庁は、この法律により USDA であるとされています。で、給食の内容は USDA に一任されているのではなく、この法律でやはり一定の枠が示されています。将来を担う大事な子供たちにとんでもないものを食わせたらあかん、という趣旨で。ですから、ランチ1食あたり、1カップ以上の野菜を含まなければならない等と規定されているわけです。アメリカは困窮層が少なくないので、結構な法律じゃありませんか。

ところがこれを 2010 年 12 月に議会がちょっと書き換えてしまった。ピザにはトマトペーストが含まれているので野菜と見做してよいと。これにより、「グリーンサラダ 1/2 カップ、マッシュポテト 1/4 カップ、ピザスライス 1 枚で合計野菜 1 カップ、USDA 基準クリア」というようなことがまかり通るようになってしまったというわけです。

これは 100%筆者の推測ですが、ピザ業界のロビー活動を受けた議員(おおかた共和党でしょうかね?)の議員立法に違いありません。去年は USDA がこれに対抗して巻き返しを図ったけれども同じ議員の抵抗に遭ってあえなく敗退。で、今度は別の民主党議員側から本来の健全な形に戻そうという動きが出ているというわけですが、これを主導している Polis 議員はどう考えてもピザ業界の代弁者ではありませんね。記事を読む限り、今年はこの SLICE 法案がスムーズに通りそうなことが書いてあるのですが、ピザ業界は大人しく見ていることにしたのでしょうか。

アメリカでは本当に議員立法が盛んで、官庁が動かないから議会が法律を作って無理やり官庁を動かす、という構図が至るところに見えます。そして官庁側も黙って従うばかりではなく、あらゆる手段を使って対抗しようとします。
筆者はアメリカの行政官庁に対して擁護も攻撃もしませんが、逆に議員側が寧ろ滅茶苦茶なことをやる、とすら思っています。議員が自発的な政策活動から議員立法を行うこともあるでしょうけれども、ある特定の利害集団からのロビー活動を受けて議員立法を行うことも多いと思います。で、消費者団体からのロビー活動に基づく立法と業界団体からのロビー活動に基づく立法とでは 180 度方向性が違うわけで、官庁はそのどちらにも対応しなければなりません。これはちょっと気の毒かも、と思ったりもします。
2010 年 12 月の議決は明らかに業界寄りですし、今年の法案はその正反対。その間政権が変わったわけでも何でもないのに… でもまあ、無理に深読みすれば今年の選挙対策(本人の下院議員選挙と大統領選の双方)という面はあるかも知れません。

…しかし、学校給食に出されるピザってどんなピザなのでしょうか。アメリカでは子供が食べるピザはチーズピザだけ、という話を聞いたことがあります。チーズピザとは、筆者も明確にこれがそうだ、という自信がないのですが、具の全くない、ピザソースとチーズだけのピザのことだと思います。例えばこんな。

Cheese Pizza

[材料](6 人分)
基本的なピザ生地
オリーブオイル 大さじ 2
無脂肪ピザソース 2 カップ
低脂肪モッツァレラチーズ 1/2 カップ
パルメザンチーズ 1/2 カップ

[作り方]
天板をオーブンの中段にセットする。別の天板を最下段にセットし、500F に余熱する。ピザ生地をビニール袋から取り出し、オリーブオイルを塗る。予熱した天板を取り出し、オーブンの扉を閉じる。生地を予熱した天板にヘラで位置を調整しながら滑り込ませる。最下段で 500F で 8 分焼き、オーブンから取り出す。周囲 1 センチを残して均等にピザソースを塗る。モッツァレラチーズとパルメザンチーズをトッピングする。中段でさらに 10 分、焼き色がついてチーズが溶けるまで焼く。12 等分して供する。

まあ本当にモッツァレラとパルメザンだけなら、しかもそれが低脂肪モッツァレラだったり、ピザソースも無脂肪だったりすれば、それほど体に悪くもなさそうですが、まあピンキリと言ったところでしょうか。にしてもこれが野菜とは。

神田にシカゴピザとクラフトビールの店があります。まだ行ったことがなくて、いつ行こうかとてぐすね引いているのですが、なあんだ、分厚い野菜に麦芽ジュースなら、体に良さそうじゃありませんか。早く行かなきゃ。

|

2012年5月10日 (木)

Pink Slime

最近何やら無理やり ift.org の記事をブログネタにしている感がなきにしもあらずですが、今日もまたそのパターンです。今日の記事はこちら。

明らかになる'スライム'の隠された真実
Posted on by ePerspective

殆どの消費者が 20 年以上も食べ続けて来たにも関わらず、それについて良く知らない製品について、このところのメディアが盛んに注目している。俗に "ピンクスライム" と呼ばれる低脂肪細密牛肉(lean finely textured beef, LFTB)は、多くの人にとって多くのことを意味するようになった。そして良く知らないことについてはいつもそうであるように、人々は不十分な情報に基づいた結論をすぐ出してしまう。

そもそもこれは何だろうか? LFTB は、ひき肉の原料でもある牛肉のくず肉から作られる。くず肉は、USDA の査察をパスした家畜の、ステーキ用肉やロースト用肉を採った残りから得られる。LFTB の原料であるくず肉は脂肪の含有量が高く、そのため以前は使用量が少なかった。業界で起きた 2 つの変化が LFTB が使われるようになった理由である。1 つ目は、消費者が低脂肪のひき肉を嗜好したことであり、このためひき肉中の "くず脂肪" をより少なくするようになったことである。2 つ目は、くず肉中の低脂肪組織と脂肪分を効率的に分離する方法が開発されたことである。くず肉は生きている牛の平熱よりやや低い温度まで暖められ、そこで乳製品工場におけるクリーム分離機と良く似た働きをする分離機を作動させる。低脂肪組織は脂肪よりも重いので、両者は素早く分離することが出来る。結果として得られる低脂肪牛肉製品は 100%ビーフであり、95%低脂肪(脂肪分 5%)である。

この方法を用いることによって、動物 1 頭から 5~6kg の低脂肪肉を余分に採取することが出来る。これは、我々が牛肉資源をより効率的に活用できることを意味し、消費者の需要がより低価格と少ない頭数の家畜で折り合うことになる。

しかしアンモニアについてはどうだろうか? Beef Products Inc (BPI)社は、LFTB をより安全に生産するためにアンモニア法を用いている。水酸化アンモニウムガスが製品に注入され、これは時として食品流通で問題となる有害バクテリアを殺菌する。殆どの人は大腸菌やサルモネラの問題を聞いたことがあると思うが、これは実際驚くほど稀ではあるのだが、一旦起きると重篤になる。アンモニア法は安全性を増大させる要素である。多くの人たちはこれはメーカーが利益を上げるためにやっていることだと考えるに違いない。しかし実際には、メーカーはこれを行う必要はないのである。そして多くの人には知られていないことだが、アンモニア法はメーカーにとっては余計にコストがかかることであり、利益を増やす要因にはなっていないのである。この方法が有害バクテリアのコントロールにかように効果的であるにもかかわらずメディアにかくも誤解されているのが実に奇妙である。

しかし LFTB は安全なのだろうか? 安全性にかかわる議論は実は存在しない。食品安全性次官 Elizabeth Hagen が 2012 年 3 月 29 日に指摘しているように、もしもこの製品が安全でないのなら、USDA は市場への流通を認可しないであろう。加えて、ABC のリポーター Jim Avila は同じ記者会見で ABC で当該製品が安全でないとか、誰かが健康被害を受けたという報道がなされたことはないと述べている。全ての食品加工法は、その加工法で製造された食品が市場に流通する前に審査を受ける。アンモニアガス注入法も、それが肉に使用される前に USDA によって慎重に審査された。当時この方法は極めて特異な方法であったため、それが承認されるまでには科学的な検証が広範になされた。もしもその時幾分かでも疑義があったのであれば、USDA にとっては yes というよりも no という方がはるかに簡単であったはずなのである。

しかしなぜこのことは広く知られていなかったのか? なぜ LFTB は食品表示に現れないのか? 食品表示のは USDA が規制しているが、LFTB はひき肉の原料である牛肉のくず肉そのものから作られているために、USDA は LFTB を表示する必要がないとしているのである。実際、こんな表示を想像することは困難である "ひき肉入りひき肉" ? LFTB のメーカーおよび LFTB を使用している会社は単に USDA の表示規制に従っているだけなのである。もしそれらの会社が表示規制に従わなかったとしたら消費者がどんな反応を示すか考えて見ると良い。現在 USDA はひき肉に LFTB が添加されたか否か表示しても良いように規制を変更しようとしている。

究極的には、消費者は自分にとって何がベストが自分で判断しなければならない。しかしながら判断は真実に基づいてなされなければならないし、推測的な意見に基づいてなされるべきではない。LFTB の添加されたひき肉はひき肉であり、安全であることに疑いの余地はない。消費者の食品に対する信頼は市場において 20 年以上も存在し、食品の安全を担保するような加工技術に裏打ちされてきたのに、今、揺らいでいるのが残念である。我々の社会におけるプライオリティも高く、証明された安全性の記録のある食品を市場から締め出すのは、歴史の後退である。

ピンクスライムとは、例えて言うなら、ひき肉から脂肪分を取り去ったようなものですが、加工工程を経ているためにミンチの原型すら留めておらず、上記の訳では「細密」としていますが、事実上ペースト状のようです。現物が消費者の目に直接さらされることはないのですが、どんな風に見えるのかというと、こんな風に見えるようです。

Pinkslime1

うげーという気はしますね。で、これがこの春アメリカで物議をかもしているようなのですが、どういう話なのかこの記事を読むだけでは良く分かりません。分かっていることを前提に書かれた記事のようです。ここで例によって Wiki を読むとどういう話なのか良く分かります。頑張ってまた以下に全訳してみました。

Pink slime

ピンクスライムは、低脂肪細密牛肉(lean finely textured beef, LFTB)、およびボンレス低脂肪牛切り落とし(boneless lean beef trimmings, BLBT)とも呼ばれ、ひき肉や牛肉ベースの加工食品につなぎとして加えられる安価な食品添加物である。細かく挽いたくず肉、腱、脂肪、結合組織等からなり、これは 100°F (38°C) に加温された遠心機中で脂肪組織から液体状の脂肪とタンパク質のペーストに機械的に分離されたものである。回収された物質は次に加工され、加熱され、そしてアンモニアガスまたはクエン酸により大腸菌、サルモネラおよびその他のバクテリアの殺菌処理が施される。細かく挽かれ、圧縮整形され、牛肉製品のための添加物として使用するため瞬間冷凍される。ピンクスライムは 2002 年に当時米国農務省(USDA)食品安全部および査察部門の微生物学者であった Gerald Zirnstein により創られた語であるが、"低脂肪細密牛肉" が適切な語であるとしてこの俗語を否定する係官もいる。

米国では本添加物そのものが合法的に直接消費者に販売されることはないが、ラベルに表示されることなく 15%まではひき肉に添加することが出来、牛肉ベースの加工肉などのその他の食肉製品に添加することができる。殺菌方法が開発される以前は、くず肉はペットフードあるいはクッキングオイルの成分としてしか用いることが出来なかった。

2012 年 3 月の ABC ニュースの、アメリカのスーパーマーケットで販売されているひき肉の 70%はこの製品を含有しているという一連の報道は世間の注目を広く集めた。引き続いて3大チェーン店を含む多くの食料品店とスーパーマーケットが、この添加物を含む製品の販売を中止する旨発表した。メーカーである Beef Products Inc. (BPI) 社および食肉業界はこの添加物は実際問題牛肉であり、"牛肉は牛肉だ" というコピーを掲げて世間の注目を集めている。

カナダにおいてはピンクスライムは認可されていない。カナダ健康省は "カナダではひき肉製造の際のアンモニア使用は認可されていない" との見解を発している。カナダ法は輸入肉製品は国産肉と同等の基準を満たすことを求めており、こうした製品を輸入することは出来ない。ある条件のもとではカナダは細密肉(Finely Textured Meat)をひき肉の調製に用いること、およびひき肉と見なすことを容認している。ピンクスライムは英国における販売の法的要件に合致せず、EU 域内では禁止されている。

歴史
1994 年、牛肉中の病原性大腸菌の公衆衛生への懸念の高まりを受けて、BPI 社の創始者である Eldon Roth が食肉をアンモニアを用いて除菌する "pH Enhancement System" の開発に着手した。この食品添加物は 1990 年代初頭に USDA により人間の食用として承認された。

USDA の科学官 Carl Custer および Gerald Zirnstein は、当時彼らはこれが "食肉" というよりも寧ろ "回収ゴミ" であると言って承認に反対していたが却下されたと話している。最終的には前 USDA の微生物学者 Carl Custer が "これはピンクだ。よって肉である" と言ったことから 当時の農務長官 JoAnne Smith が承認を与えた。"ピンクスライム" の語は 2002 年、Zirnstein が内部 email で用いたのが最初である。Zirnstein は "こんなものはひき肉ではない。これをひき肉に入れれば、偽装表示だ" と書いている。

Smith は USDA を 1993 年に退職し、BPI 社の主要サプライヤの役員となり、17 年間にわたり少なくとも 120万ドルの収入を得た。

2007 年、USDA は当該除菌方法は非常に有効であり、"一般公衆に販売されるハンバーガーに用いられる食肉のルーチン試験" から適用除外しても良いとの決定を行った。

2009 年 12 月、ニューヨークタイムスは本加工法で処理した食肉の安全性に関する調査記事を掲載し、場合によっては効果的でない場合もあることを指摘した。この中で "ピンクスライム" という俗語が使われたが、これが一般大衆で用いられた最初の例である。2010 年 1 月、同紙は社説を発表し、改めて同記事で示した懸念を述べたが、同時に BPI 社の食肉製品には何らの健康被害も感染が関連づけられているものはないことも述べられている。

製造法
製造法にはくず肉中の肉から脂肪を分離するために遠心機中で熱をかける。回収されたものに、バクテリアを殺すため、アンモニアガスまたはクエン酸を暴露させる。アンモニアガスは食肉中に存在する水分に接すると水酸化アンモニアに変化する。BPI 社により販売されている製品ではくず肉は水酸化アンモニウム(アンモニア水溶液)に暴露され、Cargill 社のものは水酸化アンモニウムの代わりにクエン酸に暴露される。BPI 社のアンモニアガス暴露では、鉛筆より細い管中を押し出す工程が含まれる。

ピンクスライムはアメリカではひき肉を製造するのに使用する食品会社に販売されている。2008 年のワシントンポスト紙では、殆どのビーフパティにおける当該製品の含有率は 25%に達しているものと推定されると述べている。ピンクスライムの製造の大半は Beef Products, Inc. (BPI) 社、Cargill Meat Solutions 社および Tyson Foods 社で占められている。

論争
2012 年 3 月の ABC ニュースの、アメリカのスーパーマーケットで販売されているひき肉の 70%はこの製品を含有しているという一連の報道は世間の注目を広く集めた。ピンクスライムは "端的に言えば殺菌剤で処理された寄せ集めのくず肉だ" と表現された。アメリカではピンクスライムを含有していてもそれが 15%以下であれば "100%ひき肉" と表示して良く、現在消費者がピンクスライムを含有していない牛肉であることを知る唯一の表示は "USDA Organic" である。原料となる部位は糞等に頻繁に接する尻近傍などの、家畜の最も汚染された部分を含む場合がある。製品のこうした特性を考慮すると、従来当該製品の摂取に伴う健康被害の報告がないからと言って公衆衛生への懸念がないとは言えない。

多くの主要小売業や卸業界が当該製品の取扱いを止めたり、食肉へ "ピンクスライム不使用" と表示したりするようになるにつれ、メディアもこの製品のひき肉への使用容認の姿勢が劇的に減少してきた。ピンクスライムに反対する反応の一部は Bettina Siegel の学校給食へのピンクスライム使用禁止を求める署名に 25 万人以上を集めた Change.org 運動によるところもあろう。消費者団体によるとピンクスライムは "汚らわしい" "気持ち悪い" と表現されるが、USDA やメーカーである BPI 社からは "安心して食べられる" と言われる。しかし Zirnstein および彼の同僚でありまた同様に元 USDA 微生物学者であるCarl Custer は、ピンクスライムについて肉というよりもむしろ "回収ゴミ" だと思ったと述べている。

消費者団体は牛肉中での使用を禁止にするか、表示を義務づけて欲しいと言っているが、BPI 社の広報担当者はその必要はないとし、"何を表示すると言うのですか? あれは 100%ビーフなのですよ。それをどう表示しろと言うのです? 100%ビーフであるものをビーフであるという以外に何と言ったらいいのか分かりません" と問いかける。

ピンクスライムは "工業的生産による、食欲をそそらない食品の見本" と呼ばれてきた。

公共利益科学センターの栄養学者 Andy Bellatti と食品政策記者 Tom Laskawy はそれぞれピンクスライムについて "確かに食欲をそそらないが、ハンバーガーにふつうに含まれている他のものだって似たようなものだ" し、"崩壊した食品システムの多くの兆候の一つに過ぎない" と述べており、ピンクスライムはアメリカで工業的に生産されている食肉にルーチンに使用されているいくつかの化学薬品の一つにすぎないのである。

消費者の懸念
アメリカの消費者はピンクスライム含有のひき肉についてそれがそのように表示されていないことについて、また現在そのため購入時の判断に利用できないことについて懸念を持っている。

2012 年 4 月 4 日に発表された Red Robin 社が Harris Interactive 社に委託して行った調査によると、88%のアメリカの成人がピンクスライムについて知っており、76%が "少なくとも多少の関心がある" と答え、"非常に関心がある" と答えたのは 30%であった。ピンクスライムを知っていると答えた人のうち 53%が購入するひき肉をよく見るようになったとか、ひき肉の購入を減らしたり止めたりといった、何がしかの行動をとったと答えた。

USDA の反応
2012 年 3 月 22 日、農務省食品安全次官 Elisabeth A. Hagen は声明を発し、"LFTB 製造に用いられる製法は安全であり非常な長期にわたって用いられてきた。LFTB をひき肉に添加することはひき肉摂取の安全性を少しも損なうことにならない" と述べた。

食肉業界への影響
2012 年 3 月 25 日、BPI 社は 4 箇所ある同社の工場のうち 3 工場の操業を停止すると発表した。3 工場は 1 日あたり合計で 90 万ポンドの製品を製造している。BPI 社は当該 3 工場を 5月 25 日付けで閉鎖する予定であると発表した。
2012 年 4 月 3 日、Chicago Mercantile Exchange のアメリカ家畜先物市場は 3 月半ぶりの落ち込みを記録したが、これは部分的にはピンクスライム現象によるものと見られる。家畜のディーラーは、"一時的な需要の落ち込みだ。長期的には家畜は強気に推移すると思われるが、短期的には確かにネガティブだ" と述べている。
ピンクスライムは AFA Foods 社と Cargill 社も製造している。AFA 社はピンクスライム論争に伴い破産手続きを申請した。Cargill 社は製造を大幅に縮小しており、2012 年 4 月に "今年のバーベキューシーズンにつなぎ不足によるハンバーガーの値上がりに消費者が備えるよう警告する" としている。

政治家とメディアの工場見学
工場の操業停止に続き、共和党アイオワ州知事 Terry Branstad によりメディアの一行が工場見学に招かれた。BPI 社の創業者は 2010 年の Branstad の知事選および他の共和党の候補者の選挙に寄付を行っている。テキサス州知事 Rick Perry、ネブラスカ州副知事 Rick Sheehy、カンザス州知事 Sam Brownback、サウスダコタ州副知事 Matt Michels、全食肉産出州の共和党員がネブラスカ州 South Sioux 市の工場を訪れ、彼らが "消費者に無用のパニックを起こさせた" としている "不正確な情報" を正そうとした。このパブリシティ使節団は "みんな、これはビーフなんだ!" というコピーを掲げていた。ニュースのレポーターはこの一行の日程の間じゅう、BPI 社の従業員に対する一切の質問を禁じられていた。BPI 社はソーシャルメディアと ABC ニュースは同社の製品に対して "大いに事実を歪曲している" と主張している。全てのコメンテーターがこの新しいプロモーションを受け入れたわけではない。
2012 年 3 月 28 日、Branstad は "問題は、これを市場から除去し、そしてこの国でよりコストを圧迫し肥満問題を増大させている、より脂肪分の多い製品に終止符を打つことだ" と述べている。ピンクスライムを陳列棚および製品ラインから排除したSafeway および他の小売店は、ビーフの価格を値上げすることはないと述べている。Branstad はまたアイオワ州の公立学校は LFTB 含有ひき肉の使用を継続するよう推奨するつもりであるとし、"公立校に手紙を送り、LFTB を買い続けるよう働きかける" としている。

放棄と負の投資

食品製造業者
ConAgra Foods Inc.、Sara Lee Corporation、Kraft Foods Inc などの幾つかの食品製造業者はピンクスライムの使用をとりやめる旨公にしている。

食料品流通業者
Costco Wholesale Corporation はピンクスライム含有のビーフは同社の基準に合致しないため、これを使用しないと発表した。Publix、Whole Foods Market、H-E-B、Fresh & Easy、Mars (スーパーマーケット)もピンクスライムを含む製品を販売しないと発表した。スーパーマーケット Gerrity’s は過去において知りながら当該製品を販売したことはないが、食肉の納入業者に対してピンクスライム不使用であることの証明を求めていることよう方針を変更した。

2012 年、食品流通業全米第 2 位の Safeway は傘下の Safeway、Carrs、Dominick's、Genuardi's、Randall's、Tom Thumb、Simon David、Pak'nSave、Vons、Pavilions の店舗でピンクスライム含有のビーフの販売を停止した。
全米第 3 位の Supervalu は傘下の SuperValu、Lucky、Acme、Farm Fresh、Cub Foods、Hornbacher's、Save-A-Lot、Shaw's、Jewel-Osco、Shop 'n Save、The Market、Shoppers Food、Albertsons におけるピンクスライム含有製品の販売を "消費者の関心が無視できないため" 取りやめた。
全米最大のスーパーマーケットチェーンである Kroger も、ピンクスライム含有のビーフの販売を止め、"我々の顧客は低脂肪細密牛肉に対する懸念を示し、- 例えそれが USDA により安全性と品質が完全に承認されているとしても - 少なくとも彼らが買いたくないひき肉である。結果として、Kroger は低脂肪細密牛肉を今後調達することはない" と述べている。
Food Lion とその子会社 Harveys Supermarkets、Bloom、Bottom Dollar Food はピンクスライムを廃止した。Meijer、Lowes Foods、Bi-Lo/Winn-Dixie もピンクスライム含有製品を販売しない旨明らかにした。
Ahold's、Giant-Carlisle および Giant-Landover は 2012 年 3 月 22 日、顧客の心配を理由に LFTB 含有製品の販売を停止した。Giant Eagle もまた、"疑問、混乱、製品に対する消費者の信用の低下" を理由に取扱を中止した。Shaw's and Star Market、Market Basket、Hannaford Bros. Co.、Target は 2012 年 4 月、ピンクスライム含有ビーフの販売を中止した。Market Basket の担当者は、ピンクスライムについて "完全に安全" であると認識しているものの、"誤解を招きやすい" ことに加えてこれに対する反応は "パニック" であり、人々が "求めていない以上、我々は撤去した" と述べた。Wegmans はピンクスライム不使用のひき肉が調達可能となるまで販売は継続するものの、つなぎ入りのひき肉の使用を漸減していく旨確約した。
Walmart とその子会社Sam's Club は近々ピンクスライム不使用のビーフを選択可能とするよう発表したが、つなぎ入りのビーフの販売は継続する旨明らかにしている。2012 年 4月半ばまでには Wal-Mart はピンクスライムの使用含有食肉の販売を止めると報じられている。
小規模な近隣のマーケットでも顧客が LFTB を食べることを望まないというニュースは増大している。
アイオワ州の Hy-Vee マーケットでは当初 LFTB を廃絶する旨発表していたが、アイオワ州知事 Terry Branstad の圧力に従い、決定を覆した。これは Branstad のスポークスマンが "中傷だ" と批判するピンクスライム事件における BPI 社の "初勝利" と Omaha World-Herald 紙により記された。それにもかかわらず、ピンクスライムは不透明な "劣った製品" であり "食欲をそそらない" とみなす人々がいると報じられている。

レストラン
McDonald's、Burger King、Taco Bell は使用する食材から BPI 社の製品の使用を中止したと発表した。
Wendy's は主要 8 紙(The New York Times、USA Today、Los Angeles Times を含む)で全面広告を実施し、ピンクスライムを使用したことがないと述べた。同社のスポークスマンはロイター通信に対し、"当社は LFTB(ピンクスライム)は当社の高い品質基準に合致しないため、使用したことがない" と述べた。
Five Guys は "当社のひき肉にはピンクスライムは入っていない。当社は 80/20 のチャックのひき肉を使用している。当社のサプライヤはアンモニア処理法を用いていない" 旨確認した。
Red Robin は "ピンクスライムと呼ばれるものを含んだビーフを調達したことも提供したこともない" と述べた。

公立学校
保護者と消費者団体がピンクスライムが公立学校から排除されるべきだとこだわったため、アメリカ農務省(USDA)は校区にひき肉についてピンクスライムの有無の選択権を与える指示を出した。2012 年 3 月、USDA は 2012 年秋からアメリカ公立学校給食プログラムにおいて校区ごとにピンクスライム入りのひき肉を購入するかしないかの決定できるようにすると発表した。2012 年 3 月 22 日には、議会において 41 人の民主党員がメイン州の共和党員 Chellie Pingree とともに USDA 長官 Tom Vilsack に対し、"余り裕福でないコミュニティにある子供たちがこの低いグレードのスライムを与えられるような 2 段階の学校給食は間違っている" として公立学校の給食からピンクスライムを廃絶するよう求めている。
USDA の声明の後、多くの校区ではつなぎ入りのひき肉の提供を中止する旨明らかにしている。全米最大の校区のひとつ、Miami-Dade County 校区では、サウスカロライナの州担当官が述べたのと同様、コストの上昇は予測されるが、ピンクスライム不使用のビーフを使用することにしたと述べた。ニューヨーク市の教育部門もピンクスライムの使用を取りやめる計画を明らかにし(Manhattan Borough のトップ Scott Stringer から当該部門へのそうするようにとの手紙を受けて)、一方ボストンの公立学校区も倉庫内の "ひき肉の全在庫を確保・隔離し、その添加物について詳細に調べることを決定" した。
Washington Metropolitan エリアでは、DC、Arlington County、Alexandria、Prince George's County の学校担当官は現在のビーフのサプライヤにピンクスライムを使用している業者はなく、一方 Montgomery および Fairfax では現存する食肉の注文をキャンセルし、翌学校年度までにはピンクスライム不使用に変更する予定である旨述べた。Anchorage の学校区ではピンクスライムを含有するビーフの購入を取りやめる計画を明らかにした。
New Jersey の農業部会はアンモニア処理されたつなぎを使っていないビーフのみを購入する旨明らかにした。加えて学校はピンクスライム含有ビーフの発注のうち本年度分の残量をキャンセルする選択肢が与えられた。
Los Angeles 統一学校区では声明で "つなぎなし、添加物なし、大豆由来成分なし、機械分離部分牛肉なしの 100%オールナチュラルのひき肉を使用する" との声明を出した。San Francisco 統一学校区もまたサプライヤはピンクスライムを用いてはならないと述べた。
学区には学区自らのサプライヤを持っているところもあるが、多くの学区は USDA から直接ビーフを購入しているため、ビーフの中に何が含まれているのか知る方法がない。2012 年には、USDA は全米の公立学校給食プログラムにおいて 700万ポンドの低脂肪くず牛肉を購入予定であると報じられている。USDA のスポークスマン Mike Jarvis は昨年全米で学校給食プログラム用に発注されたビーフ 1 億1700万ポンドのうち 6 パーセントが LFTB であったと述べている。California の教育部門の分析によれば、California Watch より得られたデータによると、USDA から得られて昨年 California の学校で供されたビーフのゼロから 300万ポンドのうちのいずれかの量が LFTB であったと見られるとのことである。
USDA によると、ピンクスライムの有無によるひき肉のコストの差異は 3 パーセント程度とのことである。
民主党モンタナ州 Jon Tester 上院議員は Vilsack に対して学校給食からピンクスライムを排除し、"高品質な Montana ビーフ" に置き換えるよう求めている。Tester は来たる農業法案で学校に USDA 一次産品の予算によりフレキシビリティを持たせ、その地方の農産品を購入することが出来るようにする計画であると述べている。

生産への影響
2012 年 3 月、BPI 社は 4 箇所ある工場のうち 3 工場の操業をストップした。同社は "危機管理中" であり、LFTB の生産は半減したと述べている。2012 年 4 月 2 日、Yucaipa Companies 所有のひき肉メーカー AFA Foods 社は "長引くメディアの注目" による "あらゆる種類のひき肉製品の劇的な需要の落ち込み" によりチャプター 11 による破産を申請した。

マスメディア
2011 年 4 月 12 日に放映された Jamie Oliver の Food Revolution では、Jamie Oliver が学校給食におけるピンクスライムの使用について公然と非難している。この放送では、ピンクスライムがどんなものであるかを説明するため、Oliver がビーフのくず肉をアンモニア溶液に突っ込んで見せ、なぜ彼がこれを毛嫌いするのか説明して見せた。Oliver は "ピンクスライムについて説明された人は誰だってそんなものを口にしたくない。生徒、兵士、お年寄り、誰だってそうだ" と述べている。アメリカ食肉協会および Beef Products Inc. は Texas A&M University の Gary Acuff の Oliver のコメントに対する質問を取り上げた youtube に反論してピンクスライムを広めようとしている。
2012 年 3 月 7 日、ABC ニュースは当時全米のスーパーマーケットで販売されているひき肉の 70%にはピンクスライムが含まれており、USDA はそれを肉と認めていると報じた。このニュースはピンクスライムに対する消費者の反感となって急速に広まっていった。いくつものスーパーマーケットチェーンが反感の対象となったつなぎを含む製品の取扱いを中止した。
コメディアン Jon Stewart は彼の番組 The Daily Show の中で "アンモニア漬けの遠心分離副産物のペースト" と表現し、生産工程をアニメーションで見せた。
Associated Press 誌のレビューではピンクスライムを含むハンバーガーの味を通常または "本物の" ハンバーガーと比較して、香りは同じであるが、ジューシーさに劣り、軟骨のような小片で非常にぱさついているとしている。

いやー、ABC ニュースが一連の報道を行ったのがこの春ですか。それで各小売店チェーンがヒステリックにピンクスライム放逐を行っているのが現在というところのようです。かと思えば酪農地域は行政を挙げてピンクスライム擁護に回って USDA もそれに加担しているという状況のようですね。なんだか日本の原発と重なりますね。立地自治体と政府は再稼動に意欲的だけれどもそれ以外は全般的に No だという構図とそっくりです。ただまあ、ピンクスライムの場合、確かに業界側が言うように資源の有効活用という側面も否定はできないと思えるのですが、やっぱりアンモニア処理というのはいかがなものか、というのと、いかにも「食欲をそそらない」(元の英語は unappetizing ですが、食欲をそそらないというより食欲を減退させる、寧ろ disgusting という方があたってますね。だいぶ上で「うげ~」と言いましたが、そういう感じです)な、まさに「スライム」です。不自然です。もとが 100%ビーフならいいのか、と言う話なら、MSGだって同じ話になるわけですからね。天然昆布から抽出した MSG なら文句ないだろう、と言われて、はいそうですかというわけにも行きません。原料が石油だろうが天然昆布だろうが、純粋 MSG を大量摂取すれば代謝異常が起きることは既知の事実です。では「脱脂加工大豆」ならぬ「殺菌処理済み脱脂加工ビーフ」ならどうなのか? 今のところ健康被害の報告は確かにないのかも知れないけれども、やっぱり気色悪い・・・ って議論が堂々めぐりですね。単に気色悪い、というその一言で片付ければいいものを、四の五の理屈をつけようとするから却って行政側から揚げ足を取られているような気もします。

ときに、アメリカのスーパーマーケットでひき肉を買おうとすると、脂肪分がいちいち表示されているのは赴任当初面食らいました。80/20(上で Five Guys が使っていると表明しているヤツですが、脂肪分 20%という意味です)とか、93/7(同様に脂肪分 7%という意味です)とか。これ、当然のことながら、肉をひいてひき肉にしてみた後で脂肪分を計り、結果として何%だったとして表示しているのではありません。最初から脂肪分 20%のひき肉を製造すると決めて製造しているのです。筆者としては、昔からそれを一体具体的にどうやって実現しているのか謎に思っていたわけです。

一番愚直で自然な方法としてはこんなのがあり得ます。いくつかの脂肪分のバラエティに富む原料肉ロットを用意し、それぞれ脂肪分を計測します。ロットAの脂肪分が15%で、ロットBの脂肪分が 30%だったら、それぞれのロットを 2:1 で混合すればいいことになります。

そうでなければ、逆に最も乱暴な方法として、適当にひいたひき肉の脂肪分を計測し、それにピンクスライムもしくは脂肪を外増し添加して希望通りの脂肪分に合わせるというもの。適当にひいたものの脂肪分が高すぎればピンクスライムを加え、低すぎれば脂肪を加えれば望み通りの脂肪分になります。で、どちらも100%ビーフです。

筆者は実際にどの方法が行われているのか知りません。が、どの方法かは行われているのです。ピンクスライムは使わない、と宣言しているにもかかわらず脂肪分をコントロールしているのなら、筆者の想像力では、上に書いた通りの「愚直な」方法しか思いつきませんが、そんな costly な方法を grocery store が採用するとは思えません。

この問題、現在まさに発展中のニュースでして、Wiki の記事などもホットすぎて引用すべきでなかったかもしれません。が、少し前のトランス脂肪酸以上のアメリカ食品産業界でのホットニュースです。日本ではこのピンクスライム、どう規制されているのかいないのか、全く分かりませんが、実のところどうなのでしょうか。アメリカで話題になっているということが日本で知られていないということ自体も気になりますが・・・

|

2012年5月 2日 (水)

American Sauce Market Trend

先ほど届いた IFT の最新 Weekly News の中で、前から気になっていた最近のアメリカの食材トレンドに関する記事があったので紹介します。

ソースとスパイスと健康

Innova Market Insights (www.innovadatabase.com) によると、パスタソース、料理用ソース、瓶詰めソース・テーブル用ソース・トッピング用調味料、サラダソース・ドレッシングなどの異なるタイプの広範な製品を含む調製済みソースマーケット分野は広くて多岐に亘り、新製品の開発競争は過熱の度を増している。調査によると、恐らく食事や食文化の多様性が消費者により認識されつつあることを反映して、この5年以上、世界的に新製品の上市が増大している。

Innova Market Insights の研究責任者 Lu Ann Williams によると「外国の食文化に対する興味の増加は料理用ソースのカテゴリで特に顕著であり、このカテゴリ単独で 2011 年の世界のソース上市のゆうに半分を占め、このことは瓶詰めテーブルソースが 1/4強、マヨネーズ・ドレッシングが 1/5 でしかないことに比較すると良く分かります」とのことである。

Williams はまた、ソースマーケットは強烈な利便性を持つイメージがあるにもかかわらず、健康への継続した志向性がある証拠もあることを指摘している。2011 年に同社が確認した全世界の新製品のうち 45%近くのものが何らかの健康遡及を行っており、うち料理用ソースが 45%、テーブル用ソースが 38%だったのに対し、サラダソース・ドレッシングについては 50%強にまで上昇していた。このカテゴリではキーエリアとなる製品ポジショニングの一つである "clean-label" な製品への関心が高く、2011 年の新製品では全新製品の 30%近いものに "ナチュラルなレシピ" や "添加物・保存料無添加" の語が使われていた。

テーブル用ソース、料理用ソースのマーケットのどちらもトマトベースの製品が主流であるが、よりスパイシーで、より複雑なフレーバーにシフトしている。テーブル用ソースマーケットでは、従来にはなかったようなフレーバーや、バルサミコなど従来よりプレミアムな素材、あるいは特殊なタイプのトマトを使用するようにし始めたように見受けられる。新規なフレーバーとしては 2011年にはラズベリーテキーラ、バーボン、ブラックベリーなどの例が見られたが、2012 年については既にワサビやテキーラなどが確認されている。

よりスパイシーなフレーバーへのシフトは料理用ソースのマーケットでも同様である。包装仕様も多様化しつつあり、昔ながらのガラス瓶の代わりに小袋やパウチに加え、小家族向けの使いきり包装などもこのカテゴリでは確認されている。

プレスリリースはこちら

筆者が駐米していたのは 2006 年~2010 年で、上の記事にある「この5年」にだいたい一致しています。たった4年の駐米でしたが、その4年の間にも、スーパーマーケットに並ぶ品物がどんどん入れ替わって行くのを驚きを持って見ていたのですが、その商品の変遷のトレンドが、まさに上に書いてあるようなトレンドだったわけです。スパイシー志向、各国料理志向、健康志向、新フレーバー、新素材。

小包装はあまり気づきませんでしたが、この5年というよりもこの2年くらいのトレンドなのでしょうか。でも 2006年に赴任したとき、ミルクなんてどうせガロン単位しかないのだろうと思っていたら 1/4 ガロンの紙パック=ちょうど日本の1ℓサイズとぴったり同じの紙パック入りもふつうに売られていたので驚いたことは記憶しています。流石にミルクは 500ml サイズ(=あるとすれば1パイント=16 fl.oz.)まではありませんでしたが。

そしてまた驚いたのが、上の記事にあるとおり、料理用ソースが実に多いことでした。料理用ソースとは、上の記事にあるとおり殆どがトマトベースの調製済みのソースで、そのままパスタのソースにしても結構ですがそれを用いてチキンを煮たり、キャセロールにしてオーブンで焼いたりと、クッキングの素材として用いるものです。日本ではそんなに種類が多くないと思いますが、現地ではこれで棚1本あるのではないかと思うほど。トマトソースなんて簡単に作れるのに、どうして ready made をわざわざ買うのか筆者には理解できないのですが、まあとにかく需要は大きいようですし、じっさい、現地のレシピを見ても、store  bought のトマトソースを用いるものも珍しくありません。で、そのソース、そんなに新製品・新フレーバーが多いということは、自分で味付けを工夫するのではなく、味付けの変化をメーカーにお任せしてしまおうという手抜きなのでしょうか。で、「お! この新製品で作ったチキンのトマト煮、これはイケる。しばらくこれで行こう」となるのでしょうか。だとするといわゆる料理のレシピとは一体何なんだ、ということになるように思うのですが。

これが料理用ソースの話。ではテーブル用ソース。テーブル用ソースとは、言うまでもなくテーブル上で各自が好きなように味をアレンジするためのソースです。日本で「ソース」というと「とんかつソース」「中濃ソース」「ウスターソース」がありますが、現地では「ウスターソース」の原型 Worcestorshire sauce よりも寧ろ A-1 Sauce とか、Heinz 57 sauce などのほうが日本のものに近いのではないでしょうか。筆者はどちらも使いませんけれども。ちなみに日本の「ソース」も使いません。
で、上の記事で言うテーブル用ソースはこれらも含みますが、こんなものよりも、寧ろタバスコなどスパイシーなものや各国料理系のソースにフォーカスしているように思われます。筆者が現地でハマったのは、中南米~カリブ系のソースで、テーブルで用いるものもあれば、マリネ用のものもありました。色々と試せるほどの数が並んでいたので、結構勉強になりました。それと、在米中に見ていて「へえぇぇ~」と思ったのがタバスコの種類がどんどん増えて行ったこと。タバスコは、筆者が子供のころからありましたが、オリジナルの味1種類しかない状態が何十年も続いたはずです。それがこの数年で何種類にも増殖してしまいました。つい先日見たやはり IFT のニュースでは、タバスコがついに Buffalo wing 用のソースを発売したとか。しかし wing に良く絡ませるために粘度を上げる必要があったとか。従来用いていた品種の唐辛子で粘度を上げると辛すぎてとても食べられないので、辛さを押さえた品種を用いることにしたとか。まあこれはエスニック系の新発売ではないのですが、新素材の一例とは言えるでしょう。

それと、サラダソースとドレッシング。これも上の記事のとおり、健康、健康、健康です。トランス脂肪酸ゼロはもう常識で、omega-3 やら flax seed oil 配合だのなんだの。そもそもオイルを使わないというものもありました。フレーバーも新健康素材もご指摘のとおり新しいものがどんどん導入されて TVCM も雑誌の広告も忙しいのなんの。スーパーマーケットの棚もコンビニ並に入れ替わります。

それでも不健康率があれだけ高いんですよねえ、アメリカ社会。あ、話が逆か。不健康だから健康に走るんですかね。だったらその前にスーパーマーケットからポテトチップスを全部撤去したらどうでしょうか。

ちなみに今回引用した記事は、全世界市場の統計を用いているようで、アメリカ市場の話ではないようですが、両者は見事に一致していると思いました。そう考えると日本のトレンドはそんなに全世界市場のトレンドと一致しているようには思えないのですがどうでしょう。料理用ソースがソースマーケット全体の半分あるなんて思えませんし。まあそれはとにかく、一度アメリカの食材トレンドを総括したかったので以上記載しました。

|

Food Geographical Indication

前回のエントリと同じく、Institute of Food Technologists の 4/27 付けのウェブニュースを見ていたら、こんな記事がありました。

CCFN、日本の専門家と食品の一般名使用についてワーキンググループで議論

食品一般名連合(CCFN)は、米国乳製品輸出協会(USDEC)と共同で、日本の将来の地理的表示(GI)の規制に焦点をあてた専門家会合に出席者を派遣した。

2012 年 4 月 27 日

食品一般名連合(CCFN)は、米国乳製品輸出協会(USDEC)と共同で、日本の将来の地理的表示(GI)の規制に焦点をあてた専門家会合に出席者を派遣した。

日本の農水省は、地理的表示を保護するための新たな枠組みを如何に導入していくかについての提言をまとめるための専門家会合を発足させた。専門家会合は今年夏に農水省に対して提言をまとめるための論点をまとめる予定である。日本が地理的表示を考慮する領域と、保護を認める範囲によっては、日本の多くの消費者や小売店などの取引関係者が大きな影響を受ける。日本は広範な食品の主要な輸入国であり、ことに特産品チーズは世界各地からの輸入が増大している。

専門家会合では、CCFN のコンサルタント Craig Thorn は、単一グループが一般的な商品名を独占することが許された場合に生じる商取引上の問題点について、メンバーの注意を促した。彼はまた日本政府が混乱が生じるのをどのように防ぐことができるか、法制的な道のりを時間を割いて説明した。その後彼は日本の農業、通称、外務、知財などの省庁の高官と会い、食品の一般名を保護することの重要性と、日本が地理的表示登録システムの導入に向けて前進するかどうかについて議論した。

「食品一般名連合は多くの国々と直接議論することが重要だと考えている。何故ならば国は法制度を預かっており、それが適切に体系化されなければ産業と消費者に深刻な影響を与える可能性があるからだ」と CCFN の専務理事 Jaime Castaneda は言う。「我々は今般の日本の GI 方針の策定について直接日本政府と議論する機会が得られたことに対して日本政府に感謝している。」

食品一般名連盟およびそのメンバーは、パルメザン、フェタ、プロボロン、ボローニャ、サラミその他多くの公のものとなっている一般名を独占しようとする一切の試みを容認しない。しかし、CCFN は “Camembert de Normandie”や Florida Orange などの場合の適切な地理的表示に反対するものではなく、傑出した産品を広めるためのそうした名称の使用を支持する。

日本の専門家会合は数ヶ月続くが、CCFN は食品の全ての一般名の使用権を維持することの重要性を強調し続けて行く予定である。

CCFN

この記事だけを読んでも何が起きているのか完全には分からないのですが、CCFN の HP に行くと背景からして良く分かります。

Names at Risk

ヨーロッパ以外のチーズの生産者は、韓国ではもはや、アシアゴ、フェタ、フォンティナ、ゴルゴンゾーラを販売できない。少なくともこれらの名称は使えない。この規制は専ら EU の要求で韓国との FTA 合意の下で定められたものである。しかしこれは氷山の一角に過ぎない可能性がある。

EU 委員会は一般名について国際的に多方面の活動を行っている。

- 米国市場に対して名称の規制をかけるべく、地理的表示の可能性についてアメリカの出方を探っていることは特筆すべきである
- 中国とは地理的表示体系について EU の視点を導入すべく交渉中である。中国はすでに 10 対 10 のバーター取引に合意しており、これにより両国は双方の 10 点ずつの地理的表示について交換・確認している。
- 日本にも FTA 交渉を通じて地理的表示を考慮するよう影響力を行使すべく活動中であり、それとは別に農水省に対して EU スタイルの地理的表示システムの導入を働きかけている。
- 中央アメリカ、コロンビア、ペルーに対して FTA を通じて名称に関する提案を行っている
- カナダに対して FTA を通じて同様の提案を行っている
- 恐らく最もショッキングなのは、永い間 Codex 標準名とされていた 2 種のチーズ(danbo と havarti)に対して EU 委員会が地理的表示申請を行っていることであろう。

欧州委員会の活動および関連する欧州裁判所の採決によっては、次のような一般名が独占される直接的なリスクにさらされているのである。

asiago, brie, camembert, cheddar, chorizo, edam, emmental, feta, fontina, gorgonzola, gouda, grana, gruyere, havarti, kielbasa, mozzarella, munster, neufchatel, parmesan, pecorino, prosciutto, provolone, ricotta, romano, salami, …and more

もしも EU がこれらの用語の多くを独占することに成功するようであれば、消費者、生産者、製造業者および全ての地球上の者が、消費者によって容易に認識される品質の良い多くのものを購入する可能性を喪失することになる。実際、アメリカ単独で、米国乳製品輸出協会のによると、全ての規模のチーズ企業を合計して約 42億ドルの影響があると試算されている。

パイは限られている
EU は約 1,000 におよぶ食品関連だけでの地理的表示を有効にしている。
これらの地理的表示の大多数は一般名の使用との間に現実の、あるいは潜在的な対立が起きることはない。問題はほんの数ダースのケースのみで、EU 裁判所等で危険に一般名が危機にさらされているのである。こうしたことは、EU や裁判所が地理的表示の保護を一般名に対して認めた場合、あるいは一般名を地理的表示の一部として認めた場合であって、その決定が、その一般名の使用に関して地理的表示の存在が国際的な制約をもたらさないことの確認がなされずにされた場合に生じる。

食品一般名連盟はグローバルな市場機会が健全に保全されるため、該当する一般名の使用が担保されるような使用法で、そうした大多数の地理的表示用語を求めていくものである。

何人たりとも世界中で永く一般名として使われていた名前に独占権を主張することは出来ない。そうすることは生産された食品の保護された地域以外での市場性を著しく損なうだけでなく、WTO や二国間で定められた関税協定や地域 FTA の価値を損なうことになるのである。

同じ CCFN のページにはこんなのもありました。

GIs Gone Wrong

Parmesan にまつわる問題
“Parmigiano Reggiano”は 1934 年にイタリアの生産者共同体で創られ、1954 年に保護認定されるようになった。以後半世紀以上、イタリアの生産者はこの独自で唯一のアペラシオンのもとで彼らのチーズを自由に販売してきた。世界のそれ以外の地域では、“parmesan”という単語が、類似のドライですりおろしたタイプのチーズと区別するための一般的な単語として定着した。

2008 年、“parmesan” と “Parmigiano Reggiano” は明確な分化を遂げていたのに、そして、parmesan がイタリア国外の世界中で生産されていたのに対してイタリア国内での生産はほんの少量だったのにもかかわらず、欧州裁判所は“Parmigiano Reggiano”を地理的表示(GI)に登録する決定を行い、これにより EU 域内での“parmesan”の用語の使用がイタリア・パルマ地域産以外のいかなるチーズに対しても違法となった。

これは parmesan の生産がパルマ以外の EU の広い地域でも永くにわたり行われていたにも関わらず決定されたもので、矛盾に満ちた決定である。

Fetters on Feta
地理的表示というものは通常特定の地域がその製品について関連があると考えるものだが、"feta" という語は、実際のところギリシャのどの場所にも、いやチーズそのものにも関係がない。この語はギリシャ語で "スライス" という意味である。この語は永いこと白くて塩漬けにした、ぽろぽろ崩れるタイプのチーズに一般的に用いられてきた。

2002 年 10 月、EU は "feta" をギリシャ全土における地理的表示の使用のため承認し、テロワールの性質(最終製品に影響を与える環境要因である)が同国内で劇的に異なるにもかかわらず、ギリシャの農作物と家畜がこのチーズの独特の品質のために必要であるとした。加えて承認時、世界の feta の約 75%がギリシャ国外で生産されている状況であった。

歴史的には全バルカン地域で作られたものであるが、規制制定時にはデンマーク、オランダ、ドイツ、フランス、トルコ、アメリカ、オセアニア、その他で作られていた。

この誤った規制の直後にデンマークの人々は次のように述べている。「ドアは既に開いてしまった。チェダーやカマンベールも PDO(原産地名称保護)申請が出来てしまう。しかしそれで終わるのだろうか? イギリスがベーコンを登録し、イタリアがピザを登録することになるのだろうか?」Hans Bender, デンマーク酪農委員会, Just-Food, 2005

流石にここまで訳すと疲れましたが、最後の一文が秀逸なので頑張りました。

要するに EU が原産地呼称制度をワールドワイドに当てはめようと活動を強めているという話ですね。例えば、Roquefort はもともと EU 統合前のフランスの国内ルールの AOC に過ぎなかったわけで、その国内ルールが国外の製造業者を縛る拘束力はなかったわけです。つまり、ドイツで青カビのチーズを作ったとして、それに Roquefort と名づけたとしても、それを違法とする法的根拠はどこにもなかったものと考えられます。通商上・社会通念上の問題は当然あり得ますがここではそれは無視します。EU が統合されたので、member state は国内法を EU directive に合わせ、域内のルールを極力統一することになったはずです。この状況下でフランスの AOC がドイツでどういうシバリを受けているのか筆者は知りませんが、以前よりは拘束されるようになっているのでしょうか。しかしそれでも、フランスの AOC が EU 域外を法的に拘束することはありません。日本産の青カビのチーズに Roquefort を名乗らせても日本法では取り締まれないものと思います。またそれを EU に持ち込まない限り、もちろんフランス法が適用になることもありません。

でも、「日本産の Roquefort」などということは実際には起きていなかったように思われます。起きていたとしても極く少数のように思えます。まあ起きていたとしたら確かにこれは法的には問題なかったとしても何か対処した方が良さそうです。それが EU の活動であり、日本政府も腰を上げたという原産地名称保護や、地理的表示保護の話なのでしょう。そこで問題になっているのが、「行き過ぎ」のケースだというのです。

CCFN の主張は全部とは言わないまでも、一部はなるほどと言える部分があります。例えば Parmigiano Reggiano は PDO でもいいけれども parmesan は GI とは言えないだろう、という主張。これは筆者の根拠のない推測ですが、"parmesan" という語の世界最大のユーザーは米国クラフト社ではないかと思うのです。だからアメリカ(Arlington, VA)に所在するロビー団体 CCFN としては声を大にして主張しますね。ただ feta の例では面白いことに、EU 委員会がギリシャを保護した結果、同じ EU 域内のデンマークから懸念の声が出て来たとは。

冒頭の日本の記事は、ようやく日本政府が GI の検討を始めたので、CCFN としては日本が EU の口車に乗らないように最大の支援(見張り?)をしようという話です。
アメリカがこれだけヨーロッパに抵抗するのは久しぶりのような気がしますがどうでしょうか。独立戦争前夜のボストン茶会事件の頃のような気もします。紅茶の利権はイギリスが独占しますんでヨロシク、と言ったらふざけんな、なら独立してやる、というのが紅茶をちゃぶ台返ししてアメリカが独立した経緯ですし、その後アメリカがコーヒー文化になった理由でもあります。PDO に加えて GI もカナリヨーロッパがいただきます、と言えば似たようなことが起こるんじゃないでしょうか。前回はイギリス単独対アメリカ・フランス連合でしたが、今回は全ヨーロッパ対それ以外のワールドワイド。ただしワールドワイドと言っても知財にセンシティブな国が先鋒で、一番やんちゃなのがアメリカ。BRICs 諸国は、ち、しょーがねーな、くらいにしか思っていない可能性が大でしょうか。ちょっと前まで海賊版 DVD が横行してた国なら PDO なんて関係ねーと言いかねません。結束は良くないでしょう。WTO もウルグアイラウンドも TPP も FTA も、そう簡単には行きません。
そこに北朝鮮とシリアがごちゃごちゃとややこしいことを。

さて日本国内の地理的表示問題。日本の農産物は、一次産品の原産地表示は厳格ですが、加工品に関しては行政も消費者も余りセンシティブではないように思います。昔から日本では、AOC のような制度というか方式は採用してこなかったように思うのです。例えば醤油。銚子は醤油の名産地ですが、気候と流通事情が醤油の生産に適していたというのがその理由で、銚子で独特の加工法が発達したとか、銚子市内で「その方法で醸造したもののみが AOC 銚子を名乗れる」などという話は聞きません。単に醸造元がそこにあるというだけのことだと思います。で、マーケットでは「AOC 銚子」ということが重視されるのではなく、主としてメーカー名が重視されてきたように思います。従って工場が手狭になれば、新天地に近代的で大規模な製造設備を新造することに何の問題もなかったわけだと思います。あるいは、大メーカーになることを潔しとしなかった良心的なメーカーは、昔ながらの製法を守っていますが、製法自体は門外不出ですし AOC ライクな考え方がそこにあるわけではありません。酒も、焼酎も、味噌も、みりんも、日本の基本的な加工食品はみんな同じです。短時間考えてみたところでは、うどんなどが AOC に近いかも知れません。ちょっとウィキを参照してみましたが、AOC と言ってもいいかもしれないうどんの名称としては、

稲庭うどん、水沢うどん、吉田のうどん、讃岐うどん

などでしょうか(厳密な検討が必要ですが)。

日本国内の PDO と PGI 法制を作る過程で海外からの輸入品にも適用できる規制に仕上げるなければならない、とこういう話だと思いますが、もともとあまり PDO と PGI に意識の高くなかった日本、欧と米の板ばさみになりながらうまくいくでしょうか。他人事ではないのですが、行く末に非常に興味があります。

|

2012年5月 1日 (火)

Fried Clam

今日、Institute of Food Technologists のウェブで、America’s Test Kitchen の上級アドバイザー、Cook’s Illustrated 誌の科学編集者、ハーバード大学公衆衛生学の助教授である Guy Crosby のインタビュー記事を読んでいたところ、次のような Q&A が目に止まりました。

Q: 好きな食べ物は何ですか?
A: これを言うと New England 出身だということが分かっちゃいますが、fried clam です! 自宅では作りませんし、実際そうしょっちゅう食べるわけでもないんですが。

はて。Fried clam。そんなにたいそうなものなんでしょうか。恒例によりまずは Wikipedia。

Fried clams

Fried clam は soft-shell clam に衣をつけて揚げたものである。
Fried clam は「barbecue が南部でそうであるように New England ならではのもの」と言える郷土料理である。海岸沿いの clam 屋台(道路沿いのレストラン)で供されることが多い。軽食としては、ホットドッグバンズに挟んで clam roll が作られる。通常タルタルソースが添えられる。

調製
貝をエバミルクに浸し、通常の小麦粉、トウモロコシ粉、および/あるいは製菓用小麦粉を混ぜたものにまぶす。これをキャノーラオイル、大豆油またはラードで揚げる。貝は「ひも」(hard-shell clam のスライス)を用いても良いし、「肝つき」(soft-shell clam 全体)を用いても良い。後者は貝の消化管がそのままの状態で残されており、風味が豊かである。しかしながら、「首」と呼ばれる吸水管は堅いため、これを取り除くレストランもある。

歴史
Fried clam は恐らくはもっと早い時期から供されていたと思われるが、マサチューセッツ州ボストンの Parker House ホテルのレストランの 1865 年のメニューに見られることから少なくとも 1865 年には供されている。貝が揚げ物だったのか、衣を付けてあったのかは不明である。同じ 1865 年のメニューには "oysters fried" および "oysters fried in batter" の双方が見られる。
伝説によると、現代の衣を付けて揚げるタイプのバージョンは、マサチューセッツ州エセックスの Lawrence Henry "Chubby" Woodman によるとされている。彼は 1916 年の 7 月 3 日に、現在は Woodman's となっているエセックスにある彼の道路沿いの小さなレストランで最初のバッチを創作したとされている。彼の看板料理の一つはホームメイドのポテトチップで、従って彼は揚げ物用の大きなバットを沢山所有していた。彼は彼の自宅の近くを流れるエセックス川の泥底から彼自身が採集した貝を使った。
後に、マサチューセッツ州 Ipswich を本拠とする Soffron Brothers Clam Co. の Thomas Soffron が堅い殻の海貝の「足」からなる clam strip を創作した。彼はこれを Howard Johnson's に独占的に販売したが、このチェーンが全国展開するに従ってこのメニューは全米に知られるようになっていった。

健康と栄養学上の考察
貝自体は低コレステロールで低脂質であるが、fried clam は揚げ油を吸収する。

Fried clam とは、要するにカキフライのクラムバージョンのようなものですが、そこで soft-shell clam というのが出て来て面くらいました。まさか、soft shell crab みたいに、殻ごと揚げてしまうのか? と思いましたが、流石にそうではないようです。

Soft-shell clam

Soft-shell clams、学名 Mya arenaria は、"steamers"、"softshells"、"longnecks"、"piss clams"、"Ipswich clams"、"Essex clams"などと呼ばれ、海水域の食用貝の一種、Myidae 科の海産軟体動物二枚貝である。

M. arenaria は炭酸カルシウムの殻を持ち、これが非常に薄くて容易に壊れやすいところから、"soft-shell" と呼ばれている(海岸に生息する隣人、厚い殻を持つ thick-shelled quahog との対比で)。

なんでもこの soft-shell clam は、カモメの好物だそうで、カモメはこれをクチバシでつまんで 150 フィートまで上昇し、そこから硬い表面に落として殻を割って中身を食べるんだそうです。いずれにしてもいくら soft shell と言ってもそのまま食べられるわけではないようで、普通の貝と同じく、殻をはずさないとダメでした。ちなみに対比の対象となっている quahog はホンビノスガイのことですが、ホンビノスガイは成長に伴って名前の変わる「出世貝」で、quahog は最も成長の進んだ大きい貝を指します。

まずはその「伝説」を見てみましょうか。上の Wiki に出てくるレストラン Woodman's の HP から。

THE STORY OF OUR FRIED CLAMS

90 年前の 1916 年 7 月 3 日、マサチューセッツ州エセックスの道路沿いの店で Lawrence "Chubby" Woodman が友人の冗談がもとでいくつかの貝をフライにしたことで元祖 fried clam が誕生した。これはその誕生秘話である。

1914 年、Chubby と彼の妻 Bessie はエセックスのメインストリートに小さな屋台をオープンした。週末には彼らは細々とした生活雑貨や、ホームメイドのポテトチップ、Chubby 自身が掘って来た新鮮な貝を売っていた。当初売上は芳しくなかったが、1916 年の 7 月 3 日、変化が起こった。

Tarr - 彼の本名は長すぎて忘れられてしまった - と呼ばれるその地の猟師が Chubby の屋台にやって来て、Chubby が「商売は、カタツムリが坂を登るより調子が悪かった」とこぼしたのは 1916 年のその日だった。Tarr はホームメイドのポテトチップをかじりながら聞いていたが、近くにおいてあったバケツ一杯の貝に気がついて、「何でこの貝をフライにしないんだい? もしそれがこのポテトチップと同じくらいに旨けりゃ客集めに事欠かないぜ」

Fried clam などというものは聞いたこともなく、Tarr のコメントは他の2人の客の冷たい視線を浴びただけだった。1人は「馬鹿げてる!」と言った。もう1人は「貝には殻がある」と指摘した。気の毒な猟師は「真面目に言ったわけじゃないさ。ちょっとジョークを言っただけだ。ポテトチップと同じように貝を揚げるわけにはいかないことくらい俺にも分かってる」とつぶやいた。

しかし、3人の客が帰ったあと、Chubby と Bessie は考え始めた。もし本当に貝をフライにして売って見たらどうなる? しかもそれが旨ければ、Chubby は自分で殻を剥いた貝の需要を拡大する方法を編み出したことになる。「やってみましょう」Bessie は言って、いつもポテトチップを揚げるときのようにラードの固まりを揚げ鍋に入れた。彼らはいくつか貝の殻を剥き、色々な衣を作って実験しては近所の人たちを呼んで味見をして貰った。最終的な評価が「うまい!」となったとき、彼らには大仕事をなし終えたことが分かった。翌日、7 月 4 日のパレードのさなか、Chubby と Bessie は最初の fried clam をエセックスの市民に提供したが、Yankee の食欲はいまだかつてなかったほどに盛り上がった!

Woodmans の実験の1年後、ボストンの魚市場が「新たなご馳走 - fried clam、新発売」と宣伝を行った。加えて Howard Johnson - 一時は 100 店舗を超えた東海岸のチェーンレストランのオーナー - が Chubby のもとに来て fried clam の作り方を覚えた。

Lawrence と Bessie は彼らの結婚証明書の裏に、彼らにとって重要な家族の出来事を記している。最初の2行は最初の2人の息子、Wilbur と Henry の誕生日だ。3行目は彼ら家族にとっての別の重要な誕生日だ。こう書いてある:最初の fried clam を揚げた。1916 年 7 月 3 日、エセックスの町にて。

95 年後でも、貝は今も Woodman's で揚がっている。始りと同じように。

たかがクラムを揚げただけと言えばそうなのですが、New England では確かにどういうわけか熱烈に支持を受けているようです。例えば The New York Times が 2007 年 8 月に World’s Best Fried Clams と称して読者からのコメントを求めたところ、370 件の書き込みが集まりました。全部なんてとても読む気になれませんが、ちょっと見ただけでも俺はあの店がいい、いや私はこの店だ、… とまあ侃侃諤諤。ほんとうに New England の iconic food のようですが、どのくらい iconic かを推し量るために、メイン州の Office of Tourism の HP から fried clam の紹介ページを。

Fried Clams

多くのフードライターが書いているとおり、fried clam は、南部にとっての barbecue、New England にとっての「それ」です。この昔ながらの夏の人気メニューは、メイン州の海岸沿いの街々 - 内陸でも - 道路沿いの小さな屋台で食べることが出来ますが、fried clam 愛好家の長い行列が出来ていることも珍しくありません。

では、素晴らしい fried clam はどこに行けば食べられるでしょうか? この質問をメイン州のシーフード愛好家に向けようものなら、たちまち議論が始まること請け合いです。しかし現実問題、どこに行けば? それは、好みによって分かれます。パン粉で揚げるか衣で揚げるか。「全体」(肝つき)か「ひも」か。「首」つきか「首」なしか。バンズに挟むか箱に入れるか。選択次第です。基本的には全ての fried clam は同じもの - メイン州沿岸で手作業で収穫された soft-shell クラム - からスタートします。殻を剥いて、ディップし、衣をつけて、揚げ、レモンとタルタルソースを添えて供します。クラム屋台でも優雅なシーフードレストランでも同じです。どちらも昔ながらの、夏の食べ物で、誰にもお気に入りの店があります。

この郷土料理の色々なパターンを知りたければ、Yarmouth の Greater Portland village で 7 月の第 3 週に行われる Yarmouth Clam Festival はオススメです。パン粉でも衣でも、揚げたての貝を食べながら貝の殻向きコンテストを見ることも出来ます。

さもなければ、あなたご自身の「ベスト fried clam プレイス」を見つけに夏の巡礼の旅を海岸沿いにしてみるのもいいでしょう。スタート地点の候補をいくつか例示すると、

•Bob’s Clam Hut in Kittery:Boston 誌で New England ベスト clam 屋台に選ばれた
•Fisherman’s Catch in Wells:Yankee 誌で“Best Catch”
•Fosters Downeast Clambake in York: VisitingNewEngland.com で New England の Best Seafood Restaurants and Clam 屋台 の一つに選ばれた
•The Clam Shack in Kennebunkport:Epicurious.com で全米トップ 10 の Seafood 屋台に
•Ken’s Place in Scarborough:1927 年以来の Pine Point ランドマーク
•Cindy’s in Freeport:2005 年、United Clam Lovers of America より“Best Fried Clams on Earth”賞

その他のローカルレストラン:Sea Basket Restaurant in Wiscasset、Fish Net in Blue Hill、The Thirsty Whale in Bar Harbor、Tall Barney’s in Jonesport、Uncle Kippy’s in Lubec

なるほど店によって流儀が色々あるからこそ my best favorite が出て来やすいわけですね。しかしつけるものがパン粉と小麦粉じゃ日本で言うところのカツとから揚げの違いがあるんですが… どちらも fried clam ですか。でも Wiki の写真を見るかぎり、から揚げと言うよりかき揚げに近いようにも見えるので、小麦粉を卵や水に溶いて使うレシピもありそうです。こうなると多少天ぷらぽいですな。
しかし貝の「肝つき」と「ひも」を使い分けるとは知りませんでした。吸水管を取り除くなどという細かい芸当まで。
ちょっと fried clam とは違いますが、clam を oyster に代えた fried oyster という皿もあり、こちらは特に New England iconic というようには思えません。それこそ全米どこでもあるように思います。New Orleans ではこれをホットドッグバンズに挟んだ Po Boy を食べました。筆者の住んでいた Rockville, MD の Addie's  では cornmeal を衣にした fried oysters を出すのですが、これが結構イケます。同レストランの属する Black's 系列の他のレストランでも Addie's style として供しているほど。恐らくボストンにも cornmeal を衣にした fried clam などもあるに違いないと思います。

それにしても、fried clam は soft shell clam を使うようで、これに hard shell を使うことはなさそうです。ではこの soft shell、他の調理法はないのかと言うと、Wiki によれば

Soft-shell clams can be eaten steamed, fried, or in clam chowder. "Steamers" (steamed soft-shell clams) are an integral part of the New England clam bake, where they are served steamed whole in the shell, then pulled from the shell at the table and dipped, first in the clam broth in which they were cooked, to rinse away sand, and then in melted butter.

ということですので、hard shell と同じくチャウダーや steamed にしても食べるようです。でもそれは New England icon ではないようで、チャウダーにするならやはり hard shell のチャウダーこそ iconic なのだと思われます。

Fried clam。New Englander にとっての fried clam は Southerner にとっての barbecue と同じとは良く言ったものです。そこまで言うなら、これはちょっと食べ歩いてみなければなりますまい。と言ってもボストン方面には全く用がないんですよねえ。いつ頃出来ることやら。

|

2012年4月27日 (金)

Bottled Sea Urchin

うに。

あー、ひらがなで書くとどうしてもネコに見えてしまうので、カタカナで書きましょう、食べ物のウニ。

すし屋の人気ネタですが、筆者は長いこと苦手でした。中学生頃までは寿司や刺身を含めてナマ物が嫌いで、家族で寿司の出前をとる場合でも筆者の分は干瓢巻きとカッパ巻きを所望しておりました。中学から高校に至るあたりでナマ物を受け入れるようになったのだと思いますが、この段階でもまだウニだけはダメでした。食べず嫌いだったのではなく、「食べて嫌い」になったのです。これ以来、出前や「お決まり」でウニが入っていると、家族や同行者に「これ食べない?」とオファーしては「え、いいの?」と感謝され続けておりました。たまには気が向いて自分でも食してみたこともありましたが、必ず「止めときゃ良かった」と後悔しました。理由は言うまでもなく「味」です。「どこが旨いか分からない」「たいして旨くない」というレベルではなく、「まずい」といつも思うのです。その理由ははっきりとは分からないので、「推定」とすら言えない根拠のないただの「決め付け」でしかないのですが、品質維持のために添加されるミョウバンのせいだと思います。ウニを食べるといつも口の中が金気くさくなってそれまで幸せだった寿司ワールドが一気にぶち壊しになるのです。

それが、金気くさくないウニが世の中に存在すると知ったのが時々筆者が書いている四ツ谷のすし屋。この店の握りがどれも非常にレベルが高いので、もしやと思って出されたウニを食べてみて、「なるほどウニってのはこんなにウマいものだったのか」と初めて納得。これはもう筆者が 40 くらいになってのことです。ウニそのものも極上なのでしょうが、ミョウバン等の添加物も入っていないか極く少量か。それ以来、この店以外でウニを食べたことはありません。

ちなみにこの店で使っているウニがどこ産のウニなのか質問したことはないのですが、見たところバフンウニではあるようです。

実は筆者はウニとはちょっとしたつきあいがあります。大学4年の時の生物化学の実験素材がウニでした。研究室全体の研究テーマがチューブリンで、その中のサブテーマである運動機能のコントロールについて1年間研究していたのですが、そこで用いていたチューブリンをどこから採取していたかと言うと、ウニの精子からだったのです。精子ですから、当然ウニはウニでもオスのウニからしか取れません。
一方、チューブリンは細胞分裂の時にも活躍します。分裂中期に見られる紡錘糸はチューブリンで出来ているのですが、同じ研究室にはこちらを研究しているグループもありました。紡錘糸を効率良く採集するためには活発に分裂している細胞質の豊かな細胞、即ち卵母細胞を豊富に持つメスのウニが必要です。
しかし、ウニのオスとメスを見分けるのは、不可能ではありませんがかなり難しいですし慣れて来ても百発百中というわけには行きません。筆者がよーし、これから実験するぞというと、まずオスと思われるウニを必要数選んで割って行くのですが、中には選択ミスでメスがだいたい少し混じっています。仕方ないので紡錘糸グループに「メス要らない?」と聞いて、ちょうど需要があれば引き取って貰いますが、需要がないとその卵巣は誰かの腹の中に納まることになります(残念ながら当時筆者はウニが嫌いでした)。逆のケースでは、余った精巣を食べる人は誰もいないので、単純に捨てられることになります。
そもそもそのウニは、その都度魚屋から買ってくるのではなく、常時大きな水槽に飼われているのですが、その元はどうしたかというと、自分たちが直接海から採集してきたものです。バフンウニを採集に行ったのは師走も押し迫った大潮の晩。南房総のとある海岸で、まずは漁協に日本酒持参で挨拶に行き、それから腰まで海水に漬かって3時間ほど。この日の収穫で初夏頃まで実験材料として食いつなぎます。夏になると、今度は三崎に行って臨海実験所を拠点に採集しますがこの時はムラサキウニが中心。秋になるとアカウニですがこれは採集にいかずに確か購入していたと記憶しています。今から考えると、生息域の問題ではないかと思います。西日本にまで採集に行っていられないという…

ウニというのは実に良く実験に用いられる動物で、高校の生物の教科書に載っている卵割の様子は、大抵ウニです。上で三崎の臨海実験所と書きましたが、ここには大学3年の時には1週間ほど合宿させられ、そのウニ卵の酪酸刺激による"未受精卵割"(単為生殖モドキ)などを実際に観察しました。

どうでもいいことを書きましたが、かようにウニとは付き合いが長いのですが、食べるほうの付き合いは比較的短いのは上に書いたとおりです。改めてウィキをひいてみると、

ウニ

日本では、刺身や寿司ネタ、ウニ丼など、生食することが多い。このため、鮮度が重要視され、生きているものの殻を割ってその場で食べると特に美味であるが、この場合、消化器官やその中にあることの多い海藻類はあまり食べない。市販されるものは、死んでから時間が経っているため、生臭さがあったり、保存や型くずれ防止のためにミョウバンやアルコールが添加された結果、食味、風味が劣ることも多い。一方で殻ウニは割ってみるまで品質の善し悪しがわからないため、寿司屋を始めとする飲食店では品質の一定しているミョウバン処理された箱ウニを使う場合がほとんどである。近年は食味の劣化を防ぐために塩水でパックされたウニも出まわっている。旬は春から秋にかけて、特に初夏は最も品質がよく、それ以外のシーズンは冷凍品が出回る。アルコール漬けウニの瓶詰は下関が発祥とされており、山口県は日本における瓶詰めウニの全国生産量の約4割を占める。

一般に生うにとして板に載せ販売されているものは、精巣・卵巣が混ざったものである。卵巣は切るとトロッと流れるようになる特徴がある。精巣は白く半透明の精子が絡み付いていることがある。精巣の方が味が濃く美味とされており、精巣のみを集めたものは高価で、高級寿司店などに卸されている。

ミョウバン入りのウニがダメなのは上に書いた通りですが、四ツ谷のすし屋のウニが箱ウニにもかかわらず素晴らしいのはアルコール処理なのか塩水処理なのか。
ところで上に引用して驚いたのは、精巣の方が珍重されているという話です。研究室での話題のとおり、まるきり認識が逆でした。

ところで、四ツ谷のすし屋とまで行かないまでも、普通のすし屋のウニが受け付けられないので、ビン詰めのウニなど論外と思って、これまで手にとって見ることすらありませんでした。ただ、先だっての萩・津和野行きの事前情報をネットで調べていたとき、上のウィキの記事にあるとおり、「アルコール漬けウニの瓶詰は下関が発祥とされており、山口県は日本における瓶詰めウニの全国生産量の約4割を占める」という情報は見かけて「ふうん」とは思いました。下関発祥に関しては、ネット上のあちこちにこんな話があります。

アルコール漬け 瓶詰めウニは下関生まれ

山口県はアルコール漬け瓶詰めウニ発祥の地。明治初期、響灘の六連島での酒席で、ウニの小鉢に誤ってジンがこぼれ、それがおいしかったことから加工技術が開発されました。

なんと。アルコール漬けのアルコールとは、日本酒や焼酎ではなく「ジン」だったとは。なかなかシャレてるじゃあありませんか。
まあそれにしても、おみやげものの「○○のビン詰め」の類、前のエントリ「萩の醤油」と同じように、何行にも亘る添加物のオンパレードであることが殆どで、ラベルを見るという動作は「買う前に確認」というよりは、「予想通り添加物まみれであることを確認」するようなものです。で、ウニについてはそもそも一部の極上ウニを除いて、寿司グレードの箱ウニですらマズイのだし、瓶詰めなら例によって添加物山盛りに決まってるし、手に取って見る価値すらないと決めてかかっていました。ところが…

やはり前のエントリで書いた萩のすし屋で、「萩らしいところを3カンだけ握ってください」とお願いしたら、フク・ヒラメ・ウニを握ってくれました。ウニは見るからにバフンウニではありません。大将によると、「バフンなんてお客さん、ありゃ瓶詰めにするやつでしょ、これはアカウニです」と来ました。以下大将の弁。

いつぞやね、北海道のお客さんが来られたんですよ。で、ウニだったら北海道のバフンが最高だって譲らないんですがね、そこにこれお出ししたんですよ。そしたら黙っちゃいましてね。こっちの方が甘くて美味しいって言ってましたよ。

この手の話は第三者として聞くと笑えますね。地元の食材自慢。しかもB級グルメ対決ではなくて超A級同士の対決。これは凄い。北海道のお客さんがどこの方か分かりませんでしたが、利尻の方だったらそれは本当にすごい。しかし大将も大将。そんなあからさまにバフンをコケにしなくてもいいのに。瓶詰め用って、あなた、地元萩ではアカウニを瓶詰めにするんじゃありませんか… まあ全国的に見ればいかにもお土産用の添加物まみれのC級瓶詰めウニはバフンであることが多いように思えますけれども…

で、筆者もアカウニ、初めて食べました。バフンとは違った味わいで、確かに甘みが強いと思います。どちらがウマいかというと、うどんとそば、コーヒーと紅茶、すしと天ぷらのどっちが旨いか比べるようなもので、「比べようがない」が筆者の答です。ではどちらが好きかと言えば、これはロットを指定しないと答えられません。上に書いたとおり、バフンはバフンでもごく一部の商品は素晴らしいけれども大多数の箱ウニは口にするに値しません。アカウニはまだこの店でしか食したことがないので何とも言えません。四ツ谷の店と萩の店で比較するならば、四ツ谷の方が好きかも知れません。しかし、それでもこのアカウニは、大多数のミョウバン臭いバフンウニとは比較にならないほど素晴らしいウニで、四ツ谷と比肩し得るくらいのグレードであることは間違いありませんでした。推測ですが四ツ谷のすし屋は北海道産の特殊仕様の箱ウニをを特殊ルートで仕入れているのだと思いますが、萩のはたぶん生ウニだったものと思います。形がくっきりとしていましたが若干不揃いでしたから。では。旬の利尻の生バフンウニを現地で握って貰ったら? これは是非試してみなければなりますまい。帰り際に大将曰く、

まだアカウニは走りで、小粒なんですよ。だから身も小さくて、ちょっとずつしかとれないんです。これから夏にかけてどんどん育って身が大きく美味しくなって行きますから、今度は是非夏にいらしてください。

そりゃまた是非来なけりゃなるまい、という気になるじゃありませんか。で、思いがけず(というより人生で初めて)四ツ谷以外の店でいい状態のウニに出会ったので、萩のウニ、なかなかやるじゃないかという認識に至ったわけです。そこで改めて思い出したのが瓶詰め。ウニの加工品なんだから、並の箱ウニより絶対まずいと決めてかからないで、違うカテゴリの食品だと思ったらどうなのか? と思い直しました。少なくとも手に取って見るくらいはしてみようと。

で、翌日。山口駅近くの物産館で瓶詰めウニを研究。萩産を含め、県内各地のものが 10~15種類ほど置いてあったでしょうか。片端から裏面のラベルを見てみると、分かったことがいくつか。

- 添加物は アルコールと MSG くらいしかない
- ウニは、塩ウニが用いられている
- 「塩うに含有率」が 90~98%と表示されている

ほほう。保存料に着色料、甘味料に○○料… なのかと思いきや、思いのほか「まっとうな」食品のようです。そもそもアルコール漬けなのでアルコール添加は不可避ですし、MSGくらいは目をつぶらないとどうにもなりません。で、比較検討の結果、塩うに含有率 98%のものは流石に値段もよろしかったので、95%のもので一番安価なものを購入してみました。1000円少々でした。

物産館ではこの「塩うに含有率」なるものが如何なる数値であるのか不明でしたが、ビンに詰められているのが生ウニではなく塩漬けのウニで、それにエタノール等の若干の添加物を加えた結果、塩漬けのウニの割合が全体の何%程度になるのかを示すものであろうと想像されます。ですから当然数値が高いほどまっとうなものだろうと想定されたわけですが、先ほど改めて調べてみるとこんなことが分かりました。

うに加工品って?


用語
定義
粒うに うにの生殖巣に食塩を加えたもの(以下「塩うに」という。)又はこれにエチルアルコール、砂糖、でん粉、酒粕、調味料(アミノ酸等)等(以下「エチルアルコール等」と総称する。)を加えたものであって、塩うに含有率が65%以上のものをいう。
練りうに
塩うに又はこれにエチルアルコール等を加えたものを練りつぶしたものであって、塩うに含有率が65%以上のものをいう。
混合うに
塩うににエチルアルコール等を加えたもの又はこれを練つぶしたものであって、塩うに含有率が50%以上65%未満のものをいう。
うにあえもの
粒うに、練りうに又は混合うにに、くらげ、いか、かずのこ、あわび、しいたけ等を加えて混ぜ合わせたものであって、塩うに含有率が15%以上のものをいう。

練らない
練る
あえる
塩うに含有率 65%以上 粒うに 練りうに うにあえもの
50%以上65%未満 混合うに
15%以上

ここで引用している農水省のページはこちら

うに加工品品質表示基準

で、最も知りたかった「塩うに含有率」ですが、上のサイトではこのように書いてあります。

製品に使用する塩うにの重量(g) × 使用する塩うにの固乾物含有量(%) × × 100


塩うにの基準の固乾物含有率(%) 製品の内容量(g)

書き直すと、

製品に使用する塩うにの重量(g) × 使用する塩うにの固乾物含有量(%) × 100


製品の内容量(g) 塩うにの基準の固乾物含有率(%)

ここで第1項をW、第2項をrとすると、Wは見た目の塩うにの配合%(重量%)です。塩うに 95g にエタノール4g、MSG 1g を配合したのならWは95%です。普通に「塩うに含有率」と言えば、単純にこのWを意味すると思いがちですがそうではありませんでした。補正ファクター r がかかっています。この r は、上のサイトによれば、

うににはさまざまな種類があり、同じ種類でも時期によって身に柔らかさなどに違いがあります。
このようなうにを使用すると出来上がりの製品の味は同じでも固さに影響がでます。
つまり同じ量のうにを使っても・・・
柔らかいうにだと水っぽかったり、しまったうにだと非常にかたかったり。
これらのうにを比較するために、うにに含まれる水分を取ってうにの固形物と加えた食塩の重量をもとに比較しましょうと基準を決めました。それが固乾物含有率です。
具体的には

うにに塩を加えたもの(塩うに)を約3gはかり取って、計量する
それを105℃で5時間乾燥して、水分を取り除く
乾燥が終わった資料を計量し、始めの時と比較してどれぐらいの物が残ったかを百分率で算出する

このような工程で、塩うにそれぞれの固乾物含有率という物を算出します。
塩うにの基準の固乾物含有率はこの式が決められた時に制定されたのものでどのようなうにを計算するときでも35%と決められています。

要するに次のようなことです。
固形分 35%の塩うにを「標準的な塩うに」と定義し、その「標準的な塩うに」を瓶詰めに使用した場合はW値そのままが「含有率」となりますが、実際の固形分が標準より多いか少ないかで見かけのWを補正しようという話です。用いた塩うにの固形分が 31.5%であったら、補正係数 r は

31.5/35=0.9

ですから、上記暫定Wが 95%であったのなら、

95 x 0.9 = 85.5

で、85.5%の塩うに含有率と計算されるというものです。こういう風に表現することも出来ます。上記と同じレシピを用いて塩うに 95g、エタノール 4g、MSG 1g レシピで瓶詰めを作ったとしても、用いた塩うにが固形分 31.5%のものであったならば、固形分 35%の標準塩うに 85.5g、エタノール 4g、MSG 1g、水 9.5g のレシピで瓶詰めしたのと同等である、と。元が水っぽい塩うにをいくら多く使っても塩うにたっぷりと表現してはあきまへんで、という表示規制のようです。しかし、にしても農水省の規制条文は分かりにくい。ちなみにかような定義になっておりますので理論上は 100%を超える塩うに含有率もあり得るということになります。

さて帰京してこの品、恐る恐る開封… そのまま食してみました。
…思いのほか、イケました。昨日は妻がイタズラで、クリームチーズに混ぜ込んでペーストに仕立ててありました。これをクラッカーに塗って。これも意外とイケました。ワインでもまあそんなに悪くありません。応用範囲はそれなりにありそうです。ただ、ほどほどにしておかないと悪ノリになりますな。

ちなみに帰路、山口宇部の空港でも瓶詰めウニをチェックしてみたところ、塩うに含有率 90%の製品が山口駅前の物産館よりもずいぶんよろしい価格で販売されておりました。やっぱり空港で帰り間際に「滑り込み買い」するのは得策ではなさそうです。

瓶詰めウニ。今後、見かけるたびに喜んで購入するほどではないにせよ、結構まっとうな食品と分かって何となく嬉しくなったのと、鮮度のいいアカウニに出会えたこと。今回の旅の収穫の一部です。

|

2012年4月23日 (月)

Hagi Soy Sauce

週末、津和野・萩に行って来ました。
山口宇部からレンタカーを借りて津和野~益田~萩~秋吉台~山口宇部と回るルートを2泊3日で行って来ました。出発前、どこで何を食べようか色々と調べているうちに、こんな店を発見。

ちそう屋 うめのは (【旧店名 梅乃葉】)

どうしても行ってみようと思っていたわけではなく、ちょうど昼時にそこを通りかかるようであれば候補の一つになるだろうと記憶に留めておいたのですが、この食べログの情報で印象に残ったのはこの店の名物であるケンサキイカのことよりも、寧ろ醤油についての話題でした。ユーザーの口コミから醤油についての書き込みを古い順に抜き出してみます。

まかない丼の味は、萩産の甘い醤油に
'09/06/14 by なた

許せなかったのは、醤油です。甘ったるく、新鮮うたうなら生醤油でしょ!!
醤油も好みがあるので、無理な人用にお塩があると助かります。醤油がまずいと書いてた方の口コミ読んでいけば良かったと、後悔しきりでした。
'10/11/19 by nonnonba-ba

醤油についてですが、萩のシーマートで萩産の地の醤油を見れば一目瞭然です。萩の醤油はどこも一緒です。食べたことがある方ならおわかりだと思います。
萩は甘口醤油の文化圏です。醤油についてちょっと調べれば、西日本全域で多い作り方・内容であることも、九州などの甘口醤油文化圏のことも自ずと理解できます。食文化です。
'11/01/04 by Jun-S

当初あまり気に留めず、読み飛ばしていたのですが、店のHPにも、わざわざ次のような説明が書いてあります。

萩の甘口醤油

西日本には甘口の醤油が多く醸造されています。特に九州では多く、珍しいことではありません。山口県萩市も甘口醤油の文化が根づいている地域の一つです。
醤油やお酒というのは、1つ1つの蔵にそれぞれの菌が存在し、それぞれの蔵の味を作り出します。味わいは違えど、様々な地の蔵が甘口醤油というひとつの食文化を紡いできました。そんな萩の食文化である、「甘口醤油」で、萩の素材、萩の料理を提供する。萩の食のスタイルとして楽しんで頂ければ幸いです。
※九州や山口・萩では当たり前にある甘口醤油がどうしても苦手な方は、スタッフに申し出てください。本醸造・濃口醤油をご用意致します。(調理工程上常に備えております。)
しかし、まったくオススメしておりませんし、食べ比べのためのご提供もいたしておりません。萩の地で、萩の素材を楽しむ、萩の食文化です。当店は、萩を楽しむお店でありたいと思っております。ご理解下さいませ。

これを読んでもまだ「へええ」くらいに思っておりました。関東の濃い口しょうゆに関西の薄口しょうゆ。萩だとさらにまたひとあじ違ったタイプの醤油があるんだなあ、くらいに思っていました。それがまた、萩以外の地方の人には結構受け付けられないほど違う味とは、面白いモンだなあ、くらいに思っておりました。

さて須佐を通過したのは土曜日の昼食後でしたから、この店は横目で認識できましたが当然寄ることはなく、そのまま国道 191 号線を西へ走り、萩市手前の道の駅「しーまーと」に寄り道。別に上の口コミを確かめようと思ったわけではなく、そもそもそんな口コミ自体忘れていました。そこで妙に沢山の種類が並んでいる萩の醤油を何気なく手にとって見ました。筆者は食品を手に取るとどうしても裏面の原材料表示を見てしまうのですが、そこで愕然。目を疑いましたがとても覚えきれないので写真に撮ったのがこれ。

Img_14512

書き出してみると、

脱脂加工大豆、小麦、食塩、アミノ酸液、砂糖、着色料(カラメル)、甘味料(サッカリンNa、甘草)、調味料(アミノ酸等)、増粘剤(キサンタン)、VB1、保存料(パラオキシ安息香酸)、(原材料の一部に乳由来原料を含む)

です。これが醤油ですか? 筆者が自宅で使っている醤油は2種類ありますが、そのどちらも

大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩

だけです。本来なら小麦も入らないのではないでしょうか。そりゃ、JAS 上では他のものを添加したからと言って醤油を名乗れなくなるということはありませんが、伝統的な本来の醤油とはこういうものなのではないのですか? 

濃い口・薄口の変形バージョンというレベルではなく、大豆が脱脂加工大豆になっただけでも許せないのに、砂糖と MSG を加えていることに加えて添加物の嵐という衝撃の事実。余りに驚いたので別の商品・別のメーカーのものを片端から手にとって原材料を見ていくと、大同小異。基本的に普通の醤油の原材料に砂糖と MSG を加えたものが基本処方のようで、これに目的に応じてアルコール、増粘剤などを加えて調整しているようです。

先ほど改めてネットで調べた、とある製品を例にとってみます。

マルオカ 天然醸造-丸大豆醤油

かけ:大豆、小麦、アミノ酸液、食塩、砂糖、酒精、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草・ステビア)、増粘剤(キサンタンガム)
金:大豆、小麦、アミノ酸液、食塩、砂糖、酒精、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草・ステビア)
甘:大豆、小麦、アミノ酸液、食塩、砂糖、酒精、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草・ステビア・サッカリンNa)
赤:大豆、小麦、アミノ酸液、食塩、砂糖、酒精、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草・ステビア・サッカリンNa)
醤々:萩産大豆、山口産小麦、国産裸麦、食塩、本みりん

やはり似たような配合になっています。このケースでは保存料としてパラオキシ安息香酸(パラベン)を用いない代わりにアルコールを用いています。まったく・・・ 防腐剤を入れないと品質が保持できない醤油ってのはどんなもんなんでしょうか・・・

ところで食文化としての「萩の醤油は甘いもの」だとしても、MSG は昔からあったわけではありません。ステビアもキサンタンガム、サッカリンも同様です。精製糖も高級品だったはず。よってこれは全く裏づけをとっていない、100%筆者の想像でしかありませんが、萩の甘い醤油は、もとももとは上で言えば「醤々」のように醤油にみりんを加えたようなものだったのではないでしょうか。「醤々」は「萩の風土が醸した、濃厚な醤油です。使った技法は、再仕込み」だそうで、720ml で1,150円(=1,597円/ℓ)しますが、これは「かけ」740円/900ml(=822円/ℓ)「金」750円/1.8L(=417円/ℓ)に比べて非常に高価です。ちょうど、本来コメだけで作るのが日本酒であったはずなのに本醸や三醸が純米に対して廉価で不味いのと同じ状況なのではないかと推測しています。で、MSG を使わない昔ながらの本格「萩しょうゆ」も高級品として存在してはいるけれども、現在、萩で「醤油」と言えば普及品の砂糖と MSG 入り甘口醤油である、という状況のようです。

なかなかネット上で原材料を公開している製品が少ないのですが、別の例を見つけました。ただし広島の会社です。

川中醤油

芳醇天然かけ醤油:しょうゆ(脱脂加工大豆[遺伝子組換えでない]、小麦、食塩)、かつお節、昆布、糖類(砂糖・ぶどう糖)、みりん、蛋白加水物解物、調味料(アミノ酸等)、アルコール
濃醇濃口醤油豊醸:脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、醸造調味料、砂糖、アルコール、ソルビット調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草、ステビア)
本醸造うすむらさき:脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、ぶどう糖、アルコール、調味料(アミノ酸など)、甘味料(甘草)
むらさきさしみ:大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、砂糖・ぶどう糖果糖液糖、アルコール、調味料(アミノ酸など)、甘味料(甘草)
赤身用むらさき:大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、水あめ、アルコール

一番上のものは、「牛乳」に対する「乳製品」のようなもので、醤油を原料に用いた醤油加工製品とでも言うべきものですが、にもかかわらず「醤油」と名乗っています。それはさておき、やはり目的に応じて実に色々なものを配合するようです。

道の駅「しーまーと」の売店でかように驚いた後市内に入り、宿にチェックインしました。その後折からの暴風の中萩焼を物色しに街中をウロウロ。夕方になったのでホテルに戻り、夕食は食べログで評判の良い居酒屋を考えていたところ、雨はさほどでもないものの強さを増す暴風で断念。宿の近所で好評のすし屋は予約で満杯、代替案の居酒屋も行って見るとあろうことか満席。暴風から逃げるようにスグ隣のすし屋に飛び込んでようやく本日の夕飯が確保できました。

日本酒を頼んで「軽くツマまれますか」というので刺身をお願いすると、盛られた刺身と一緒に「これ甘い醤油なんですけど、おいやでしたら辛いのもありますから」と小皿の醤油が出てきました。萩焼と暴風で甘口醤油のことを忘れていましたが、ついにそれが目の前に。甘いと言ってもどのくらい甘いのか? と箸の先をちょっとつけてみて味見をすると… 「甘ぇえええ!」と飛び上がるほどではなく、「うん、確かに甘いですね」という程度でした。用途によって甘さの程度は違う可能性は高く、すし屋だったので甘さ控えめだったのかも知れません。が、それにしても予備知識なしでこれを出されたらドびっくりするでしょうね。今回は事前情報があったのと、大将が上のように注意喚起してくれたので飛び上がることはありませんでしたけれども。で実際筆者はどうしたかと言うと、折角萩に来ているのだから、萩の流儀で食べようということで、通常バージョンの醤油に取り替えて貰うことはしませんでした。食べログの Jun-S 氏の書き込みや「うめのは」の HP にあるとおり、これは文化なのですから。ただ最後まで躊躇したのは「甘い」こと自体ではなく「MSG 入り」という点でした。いくらなんでも MSG は文化ではなかろうと思うのです。出された醤油が、上で筆者が推測した「昔ながらの」「みりん」(←これも「みりん風」のような似非みりんでは当然ダメです。純米の本物でないと)で作った甘口醤油だったのなら何の問題もないのですが、MSG 版の普及品の醤油ではちょっと…

さてこの甘口醤油、地元の方にとってはなくてはならない味のようです。

山口県の醤油

刺身には絶対コレ!
どうも山口県の醤油に限らず、西日本の、しかも日本海側の醤油は甘味が強いようです。和食では欠かせない味付けの基本となる醤油。何でも子どもの頃から慣れ親しんだ味が一番おいしいと感じるものなのでしょうが、まうご犬にとっては魚の刺身にはこの濃厚で甘口の醤油がベストなんです。
特に、新鮮なイカや鯛などの淡泊な味の刺身には絶対この醤油じゃなきゃイカンのです。トロリとした、甘辛い醤油、普段の食卓に新鮮な魚が並ぶ地方ならではの味かな?でも、甘くない醤油で育った人には不味いのかな。甘い醤油はダメだあーという人には 勧められません。全国的なキッコーマン醤油をスタンダード味としていろんな地方の醤油の味比べをしてみるのも面白いでしょうね。基本になる味の指標として、郷土の料理の味の特徴が分かり易いかもしれません。

萩の醤油その1《萩市》

萩の醤油の特徴はなんだか知ってますかな??? そう、めっちゃくちゃ甘い事!!! 東京に住んでいた頃、萩醤油以外の市販の醤油を買った時一口食べて腰を抜かしました。。。 理由は、甘くないから!!! あまりのショックで実家にスグ電話。「頼むから醤油を送ってくれ!今スグにだ!かあちゃん!!」
萩の醤油が日本一旨いと思っていたので、自信満々で友達に食べさせたんですが、「こんな甘い醤油食えるか!刺身が台無しじゃねーか!!!」 え!!!???嘘やろ!!!??? 萩の醤油が不味い???
萩の皆さん、嘘かと思うかもしれませんが、コレ本当なんです。飲食店に行っても萩の醤油、市販の醤油と二種類用意している所が結構多いんですヨ。萩に来る観光客の方は甘い醤油に慣れてないので、市販の醤油はないの?と尋ねられるんですって。実際、萩の親戚が関東の人と結婚する時にあちらの親族を萩に呼んで食事をしたんですが、誰一人萩の醤油に口をつけようとしませんでした(泣)
でもねでもね、好きな人は一度食べたらヤミツキになるくらい好きになってしまい「萩の醤油じゃなきゃダメだ」という事も多々あります。もう好みですね、こりゃ。萩の醤油は山口県の中でも一番甘いとされています。

うーん、「新鮮なイカや鯛などの淡泊な味の刺身には絶対この醤油じゃなきゃイカン」ですか… タイはまだともかくとしても、ただでさえ甘みの強い新鮮なイカに甘口醤油ですか… 味がタブって濁りませんかね? そうかと言って、言われて見れば関東の濃い口醤油では調味料が勝ちすぎるかも知れません。そう言えば筆者行きつけの四ツ谷のすし屋では、イカはいつでも塩をパラリでした。

ただ、煮物をするならこの醤油でもあまり問題はないでしょう。濃い口を使うにせよ、薄口を使うにせよ、どうせ出汁と砂糖・みりんは加えるわけですから。ただし筆者のようにみりんは使うが精製糖は使わない、MSG も使わないという方針だとこの醤油は少々具合が悪いことにはなりますが。

一般論として西日本~九州では甘口の醤油は珍しくないようです。砂糖を入れないまでも甘みを残した醸造法で作った醤油なのか、萩のように甘味料を加えて甘くしたのかは色々のようですが、関東から福岡に引っ越した方の醤油に関する苦労話なども見つけました。

九州地方のしょうゆは基本的に甘いのですか?

関東~東北の醤油は、言わば田舎醤油なわけですが、江戸のそばもこの田舎醤油でないと成立しないわけで、関東~東北の煮物・汁物も全般的にやはりこの田舎醤油でないとダメです。これらを関西の都醤油で作っても「てやんでいべらぼうめ、こんなふぬけな醤油があるもんけえ」となるところ、西日本の甘口醤油で作ろうものなら、「てめえらケンカ売りてえんかってんだ。醤油に砂糖入れるなんざあどういう了見してやがんだ」となること請け合い。筆者も関東の醤油でないと生きていけないクチなので、関西ならまだしも、福岡あたりだと上の「教えて」によると、デパートでも中々関東向けの醤油が入手できないらしいのでこれはカナリのストレスになりそうです。
そう言えば、アメリカではキッコーマンがデフォルトのせいか、甘口でも薄口でもなく関東風の濃い口醤油がデフォルトであるという意味ではストレスがありませんでした。ただし、脱脂加工大豆やアル添を拒否したりするオプションを選ぼうとするとべらぼうに高くつきますが。

萩で1泊して秋吉台へ向かう途中で立寄った道の駅にも萩の醤油が沢山並んでいました。ここで素朴な疑問。誰が買うんでしょうか。そんなに売れるんでしょうか。もし、上で引用した書き込みの通り、萩の醤油は山口県でも一番甘いんだとすると、萩の人と、萩以外の一部のファンしか買わないと思うんですがどうなんでしょう。長崎は甘い味付けで有名ですが、例えばその長崎をもってしても「いくら何でも萩の醤油は甘すぎる」とか「あれくらいなら許容範囲」とか、そういう話を聞いてみたいですね。
プラスして、「甘い」ということとは別に、あの人為的な原材料の状態についてどう受け止めるのか。甘いことは文化として大いに結構だけれども現在の普及品はどう考えてもおかしいという話はあって然るべきだと思うのです。実は、この問題は甘さの程度と別問題ではありません。みりんなどの天然の甘みや、和三盆など良質の糖分であれば、相当の糖度であってもくどすぎずべたつくことなく爽やかに仕上がるのです。逆に、精製度の高い上白糖を用いると大した糖度でないのに耐えられないほど甘ったるくて胃もたれまでしたりします。このあたりも人工的な原材料に頼らない、原点に立ち返った甘口醤油で勝負していただきたいものだと思います。

少し前のエントリで筆者は左党と書きましたが、そこで書いたとおり羊羹などの甘味でも、尊敬すべきものは尊敬します。萩の醤油も、伝統に恥じない正統派のものが復権することを願って止みません。

|

2012年4月17日 (火)

Roasted Coffee

前回のエントリで、注文を受けてから計量・焙煎したコーヒー豆を購入したことを書きましたが、それを実際に飲んでみました。
まず購入した翌朝、まだ飲用には早いのを承知の上で、蒸らしに対して豆がどのような反応をするのか知る目的でコーヒーを淹れてみました。その結果、見事に「もわぁ~」と豆が盛り上がりました。家庭内で初めて見る現象に、二人して「をを~」と拍手。味のほうは、これが本当にその店の最深ローストなのか? という感じのあっさり系。数日置いてから毎朝飲み続けて今日で約1週間経過。朝のコーヒー担当の妻によると、だいぶ盛り上がり度が低くなってきたとのこと。味についてはこの数日、だいぶ練れて来たかな、という印象。バランスは良いと思うので、「煙が出るほどのフルロースト」から卒業を目論んでいた筆者としてはスイッチ先の候補の一つと考えてもいいかな、と思いました。それとこのブレンド、油分が表面に全く浮きません。これはいいのか悪いのか? のちほど考察します。

焙煎後の豆からはしばらくの間炭酸ガスが発生しているということは、前のエントリでも軽く触れていますが、改めていくつかのネット上のソースを引用してみると、こんなものがあります。

1) 秘蔵!コーヒー豆知識・炭酸ガスと鮮度
2) 自家焙煎珈琲カフェ・ヴェルディ~コーヒーと鮮度
3) 自家焙煎コーヒー豆の販売 【遠赤焙煎工房 レコルト】
4) 熟成
5) コーヒーの中山洋行

どうして炭酸ガス(二酸化炭素)が発生しているかについて言及しているサイトはありませんでしたが、豆を高温で焙煎して、豆の色がグリーンから茶・こげ茶に変化しているのですから、端的に言えば焦がしている=緩慢に燃焼させていると理解してまず間違いないものと確信します(メイラード反応をも含んでいる可能性はありますが)。燃焼しているからには、

CX + O2 → CO2 + X

という化学反応が起きているに相違ありません。焙煎終了時点では豆の内圧は5~10気圧という話がありますが、これは豆内部で発生した炭酸ガス(および/あるいは水蒸気)が、外部に出られずに「マイクロ圧力釜」状態になっているものと推定します。はじける直前のポップコーンのようなものでしょう。焙煎終了と同時に内部圧は徐々に下がって行くわけですが、それは内部ガスが徐々に抜けていくからで、それが完全に抜け切るのに、業界などでは経験的に数日~4日ほどかかる(挽かない豆のままの状態で)とされていて、パック詰め・缶詰等にするのはこれを待ってからである、とのことです。そうでないと高原に持ち込んだポテトチップの袋状態になるというわけです。

逆にこの頃になってようやくコーヒーの味がピークに達するという話が上記 2) と 5) に書いてあります。2) も 5) も、ご丁寧なことにグラフまで用いてそれが書いてあります。

Timeto1
2)のグラフ

Es_2_1b1
5)のグラフ

なお 5) のグラフは金沢大学の Prof 広瀬幸雄のデータだそうで、氏の著書『もっと知りたいコーヒー学』 旭屋出版 2007年、『コーヒー学入門』 人間の科学新社 2007年 などは今度読んでみたいと思います。2) のグラフについては縦軸が何であるのか全く分かりませんので、おいしさを視覚的に表現しただけなのかもしれませんが、まあ言いたいことは分かります。ともかく、炭酸ガスが抜けきったころが味のピークで、そこから徐々に味・風味は落ちていくというのが共通した見解のようです。なおどうして焙煎直後ではなく、炭酸ガスが抜けきったころに味のピークが来るのかを直接的に説明しているサイトはありませんでしたが、4) に

特に焙煎後すぐは、二酸化炭素ガスを大量に放出しているため、挽いて淹れると粗い気泡が大量にでてしまい、お湯とのなじみが悪く、味が落ち着きません。

とありました。豆自体の味が未熟であるということではなく、残存している炭酸ガスのため、抽出効率が上がらないのが理由であるとのことで、それなりに説得力はあると思われます。

…ちょっと待ってください。ということは、「もわぁ~」と盛大に盛り上がる豆は、確かに新鮮な証拠だけれども、逆に飲用にするには未熟であることの証拠でもあるということでしょうか。う~む。葉山のコーヒーは何だったんだろう…
まあいいでしょう。焙煎後4日頃が味・風味のピークとします。その後は落ちる一方になるわけで、あとはどの程度落ちたところまでを守備範囲とするかです。豆の状態で概ね2週間程度としているサイトが多いようですが、これは飲む人が決めればいいことです。ウチは5日目~7日目の3日間でしか飲まない、と決めてもいいですし、いやいや3週間以内なら許容範囲だとしても結構です。こだわりの程度と財布の余裕との関係で決めればいいだけのことです。大手メーカーの賞味期限は1年くらいでしょうか。ただし未開封状態で、です。「未開封で」ということと大いに関係がありますが、上の「こだわり期間」は保存方法に大きく依存します。

「味・風味のピークは焙煎後4日程度がピークで、後は落ちる一方」というのが、炭酸ガスと同様に内部の成分が抜けていくという現象であれば話は違うのですが、風味の低下は、風味成分の酸化による部分が大きいということを考えなければなりません。保存についてはこんな情報があります。

6) Roasting Processを追え!-後篇- | 珈琲コラム | コーヒーはUCC上島珈琲
7) コーヒー豆の保存について

6) では、こんな記述があります。

大気下でのコーヒーのシェルフライフ(品質保証期間)を比較すると、焙煎した“豆”は、挽いて粉にしたコーヒーの7倍に相当します。つまり同じ環境であれば、粉砕して1日置くのと、豆のまま7日間置いておくのとでは、品質劣化の進み具合は同じということです。また、温度が10℃上昇した時、品質の低下は2倍になります。つまり、20℃で10日間の保持期間は、10℃で20日間となり、0℃では40日間に伸びるのです。

ちょっと科学的には稚拙(失礼!)な表現ですが、後半は一般的な反応速度論で、俗に「温度 10℃アップで反応速度2倍」と呼ばれる現象のことを言っているわけですね。風味物質の酸化自体は避けられないけれども、その速度は、保存温度を低くすることで抑制することが出来るということですね。だから冷蔵庫や冷凍庫を上手く利用したらいい、と。その目安として(人それぞれですが)2週間で飲みきれない分は冷蔵庫へ、3週間で飲みきれない分は冷凍庫へ、などと言っている方もいます。
ただし! 科学の実験で試薬を使った方では常識ですが、冷蔵庫から取り出したばかりの状態で試薬ビンのフタを開けてしまうと、次のようなことが起こります。フタを開けた瞬間、部屋の空気がビンの中に入り込みます。ところがビンの内側はキンキンに冷えています。当然、ビンの内側で結露が起こります。試薬の場合、あ~あシケちゃったでは済みません。試薬にとって水は不純物に他ならないので、試薬ビン丸ごとダメにしたのとイコールなのです。もしその試薬を使って実験してしまえば、その実験結果は福島原発の政府発表と同じくらい信頼性のないものになります。
ですので、不要な湿気を避けるため、冷凍庫・冷蔵庫にしまった場合は、取り出して開封する前に室温に戻すことが肝要です。この方法は、コーヒー豆以外でも、冷蔵庫にしまいたいけれども、中身の湿気を防ぎたい場合にはあらゆる食品に応用できます。ちなみに豆を新聞紙に広げて室温に戻すという記載をどこかで見た気がしますが、上に書いた理由でこれには筆者は同意できかねます。

ちなみに前半は、豆を挽いて粉にすると酸化反応の起きる「場」(単なる表面積ではなく)が7倍に増えるということを表しているわけで、これは他の食品でも同じです。細かくするといたみが早くなります。かたまり肉より挽肉の方が、普通の納豆よりひきわり納豆の方が早くいたむのと同じです。どんな食品でも長く持たせたいと思ったら刻まないことです。「刻みおき」せず、その都度、必要な分だけ刻んで使うことです。

7) のサイトでは、空気への接触を最小化する make sense な方法について書いてあります。
「他の容器に移さない」--- キャニスターなどは小洒落ていますが、容器と豆の間に必ず間隙が出来、しかも豆を使うに従ってその間隙が大きくなっていきます。これは豆と空気の接触を最小化するために合目的的であるとは言えません。寧ろ、購入時に入っていた袋をそのまま使い、使う都度、口をきっちり折りたたんで空気を追い出して口をきっちり閉める。ただそれだけのことの方が、寧ろ理に適っているわけですね。これを追求するなら、購入時に入っていた袋ではなく、Ziplock などに移した上で毎回脱酸素剤を投入してからシールする等すればベターということになるでしょうけれど、そんなことをやるよりは2週間以内に飲みきる、と決めた方が現実的でしょう。

ところで 6)のサイトには油脂分についての記載がありました。ちょっと長いですが引用します。

コーヒー自体はもともと脂質と言われる油脂分を持っています。生豆の時は非常に固いコーヒー豆ですが、焙煎すると体積が膨張し軽くなります。そして焙煎度合いが深くなるほど、もろくなります。これは孔(あな)がどんどん大きくなるためです。ちなみにこのような変化を「パフィング」と言います。
そして孔(あな)がさらに大きくなり、やがて崩壊し亀裂が生じます。すると、それまで孔(あな)の内側の表面に付着していた油脂分が、内部の圧力に押され亀裂を通じてにじみ出してきます。これがコーヒー豆の表面を光ったように見せている油の正体です。焙煎の浅い(色味の明るい)豆より、イタリアンローストのように深炒りの豆ほど光っていませんか?
これは焙煎が進むほど亀裂が生じ、油脂分が表面に出やすくなっているためなのです。また、油脂分は40℃以上で液化するため、夏場は特に表面に出やすくなります。でも、浅炒り豆も深炒り豆も油脂分の量は12%前後でほぼ同じなのです。
コーヒー豆は挽いて粉にして使いますね。これは、粉状にすることでコーヒーの表面積を増やして成分を抽出しやすくするためです。粉になったコーヒーの表面積は、なんと豆の時の1,000倍以上になります。
つまり“粉にしたコーヒー”とは、孔(あな)が細かく砕かれ、内側の油分がより溶け出しやすくなっている状態なのです。特に焙煎度合いの深いコーヒーをいれた時などに、表面に油分が浮かんでいることがあります。これを見て「このコーヒーは古いのでは?」と訝しがる方もいますが、コーヒーにもともと含まれている成分が抽出されただけですから、ごく自然なことなのです。
また、コーヒーの香り成分のうち、脂肪酸はこのコーヒーの油脂分に由来します。つまり「油脂分」と言ってきましたが、言い換えれば「アロマオイル」でもあるわけです。

筆者も経験上、深炒りであればあるほど表面に浮く油脂分が多いような気がしていましたが、やっぱりその理解でいいようです。上の記載を見るに、コーヒーの香り成分は脂溶性であると言いたいようで、だから表面に浮いている油脂はアロマオイルと言っても過言ではないと言いたいのだと思います。それは多分そうなのでしょう。ただ、脂肪酸そのものは無臭で、とても香り成分と言えるシロモノではないと思いますが…
で、今回のブレンドは油脂分が浮かないのはどうしてでしょうか。可能性だけならいくらもありますが、そのうちの一つ。くだんの豆は今朝で9日目で、当初ほどではないにせよ、蒸らしでまだ多少盛り上がりました。残存している炭酸ガスが油脂分の抽出も阻害している…? 味わいもまだ奥行きが十分でないように感じますが、これが油脂分の移行性不足による可能性があります。まあウチには分析機器は一切ありませんので官能検査だけしか出来ませんけれども、もう少し研究してみます。

|

«Bunkyo Food Walking